推し活翻訳20冊目。The Way Past Winter、勝手に邦題「ミレンカは冬をこえて」
原題:The Way Past Winter (Chicken House)
原作者:Kiran Millwood Hargrave
勝手に邦題:ミレンカは冬をこえて
概要と感想
みな、あの冬のことをよく語る。あまりに不意に厳しい冬がやってきて、小鳥たちは枝にとまったまま凍りつき、川のしぶきは一瞬で霜となって、流れを止めた川面に、かすむ結晶のように降りそそいだ。あの冬が来て、そして、冬は終わらなかった。
3年、5年と冬が続くにつれ、人々が使う荷車はそりに代わり、美しい馬は使いものにならなくなった。世界が変わってしまったので、人々は変わった世界にあわせて暮らしを変えた。
人々が語る物語も変わった。川に棲むニンフは、凍った湖の底にひそみ、子ども引きこもうと待ちかまえる氷の少女になり、陽の光が輝く春が待つ魔法の島は、氷の地平線のはるか彼方の手のとどかぬ場所になった。
その冬がたれこめるエルドビョルグの森に、四きょうだいは暮らしている。17歳の長女サンナ、次女のミラ(ミレンカ)、末っ子で7歳のピッパの三姉妹と15歳の長男オスカーだ。母は、ピッパが幼いときに亡くなり、そして、父が姿を消してから5年が経つ。
貧しいながら、強い絆で結ばれたきょうだいは、力を合わせて冬を生き抜いている。そんなある日、ミラが、そりを引く犬たちのようすをたしかめに家の外へ出ると、見知らぬ大男が、オスカーと同い年くらいの少年をおおぜい引きつれて立っていた。金色の目をして、獣のような臭いを放ち、大きな斧をベルトに差した男は、「おまえの名前はなんという?」と呼びかける。
ミラは、男のブーツが深い雪の上に浮いていることに気づく。が、一瞬目を離したのちには、足はふくらはぎまで雪に埋まっていた。なにか、苦いものが喉にこみ上げてくる。そのとき、オスカーがドアを開けて「ミラ?」と呼びかけ、男に名前を知られてしまう。その途端、ミラは目の奥に、頭痛の前兆のような痛みを感じはじめる。
オスカーは、旅の途中だという一行に家の敷地で夜を明かすこと許可する。深夜、ミラがなにかの気配で目ざめると、窓の向こうに、炎に照らされ、ひどくゆがんだあの男の巨大な顔があった。そして、その窓に向かって立っているのは兄だ。
思わず「オスカー」とささやきかけると男の顔は消えるが、オスカーのようすがいつもと違う。そして、一夜が明けると、大男たちの一行は雪の上に跡も残さず消えていた。オスカーとともに。
☆ ★ ☆
ハーグレイブさんの児童書3作目は、冒頭から、終わらない冬の情景描写や、そこに生きる人々の暮らしの語りにぐっと引きこまれます。まるで、長く語りつがれてきたおとぎ話を思わせるファンタジー。
ヨーロッパやユーラシアの北部には、クマと冬が結びついた民話が多くあり、こういったものが作品のベースになっているようですが、古いおとぎ話のようでありながら、ハーグレイブさんらしい独特の世界を構築しているところがさすがです。
白銀の雪景色から、氷で覆われた森、雪をけたてて疾走する犬ぞり、そして、寒さのなかで毛皮や毛布にくるまる子どもたちの暖かい息づかいまで感じられるような北国の物語なのですが、作品の後半では、最北の魔法の島トゥーレが舞台となり、雰囲気がガラリと変わります。ある登場人物の言葉、
Stories are just a different way of telling the truth.
は、別の作品でも使われていて、ハーグレイブさんが作品にこめたメッセージを感じました。
「すべてを語らない」スタイルも健在で、読者は、オスカーを探すミラと過酷な旅をともにしながら、この先に出会う魔法使いの少年の真意や、なぞの大男の正体、父が去ったわけなどを、想像力をフルに働かせて追い求めなければなりません。
書かれた物語以上の物語をじっくり味わってもらいたい作品です。