推し活翻訳25冊目。Olivetti、勝手に邦題「オリベッティとぼくの物語」
原題:Olivetti
原作者:Allie Millington
勝手に邦題:オリベッティとぼくの物語
出版社:Feiwel and Friends
イラスト:Sarah Singlton
カバーデザイン:Michelle Gangaro-Kokmen
概要と感想:
きっと、タイプライターに話しかけたことは一度もないでしょう。ご心配なく。あなたが悪いのではありません。人間は、タイプライターには自分たちを理解できないと思いがちですから。でも、ゆっくり時間をかけていただければ、いろいろなことがわかるはずです。
自己紹介をするべきでした。ええ、ちゃんと礼儀をわきまえています。幅広い教養を身につけた丸い性格なのです。角だらけのずんぐりとした見た目と違って。
わたしは、オリベッティと呼ばれています。これは、わたしが製造された場所の名前にすぎません。タイプライターは、人間のようには名前をつけてもらえないのです。本のようには。ああ、あの目立ちたがり屋たちの話は、どうかさせないでください。
多くのタイプライターがオリベッティと呼ばれていますが、わたしのように残っているのは、ごくわずかです。たくさんの仲間が絶滅しました。まるで、恐竜のように。だれも、わたしたちの化石を発掘しようとはしないでしょうが。もし、恐竜のように咆えることができる種族だったら、状況はかなり違っていたのでしょう。
タイプライターをはじめて見る、ということもありえますね。若い人間たちが、わたしを見て楽しそうにすることはあまりありません。
「これ、なに?」子どもがわたしを見たときに、よく口にする言葉です。金属のフレームをなでまわして、そこにはない、あるものを探します。「スクリーンはどこ? こわれたパソコンみたいだね」
これは、はなはだ不愉快だと言わざるをえません。
タイプライターは、あんな知ったかぶりなんかより、もっとずっと品格があります。
さあ、じっくりご覧になってください。
☆ ★ ☆
と、原書では、ここにタイプライターの手書きのイラストが入っています。絵がかわいいし、なんてしゃれたオープニングなんだと、一瞬で心をつかまれました。
本書は、サンフランシスコを舞台に繰り広げられる、ちょっと切なくて、ハートウォーミングな、ミステリー仕立ての家族再生の物語です。
語り手は、タイプライターのオリベッティと、その持ち主であるブリンドル家(両親と4きょうだいの6人家族)の一員で、12歳のアーネスト。アーネストは、オックスフォード英語辞典が愛読書で人と話すことが苦手という、とても内気な少年です。セラピストに通うほど。
膨大な言葉を内に秘めたタイプライターと、胸にたくさんの思いを抱えた少年という構図がとてもいい。本の表紙には、題字のほかにこう記されています。
A boy, a typewriter, and the stories they hold.
扉の言葉がまたいいのですが、洋書好きの楽しみを奪わないように伏せておきますね。
冒頭の数章はオリベッティの一人語りで、とぼけたユーモア満載の楽しい雰囲気で始まりますが、すぐに大事件が起こります。オリベッティを大切にしていたお母さんのベアトリスが失踪するのです。オリベッティを質屋に売り払って。
ゆいいつの目撃者であるオリベッティは、その行動にショックを受けながらも、なんとかしてベアトリスを捜す手伝いをしたいと、タイプライター族の掟を破ることを決意します。すなわち、ベアトリスが打った言葉、ベアトリスの記憶を、自らの意志で打ちだすのです。
ひょんなことからオリベッティと再会したアーネストは、オリベッティの秘密を家族に話せないまま打ちだされた記憶をたよりにお母さんを探し、失踪の理由を解き明かそうとします。読者は、ブリンドル家が抱える暗い秘密に向き合わなければいけなくなって、このあたりは胸が痛い。
実はちょっと重めの主題を扱っているのですが、緻密なストーリー展開で読者をひきつけますし、アーネストとオリベッティの交互の語りが効果的。思わず胸が熱くなる名言や、ここでそうくるか!という遊び心いっぱいの伏線回収も粋です。
ミリントンさん、これがデビュー作そうですが、ニューヨークタイムズ紙上にトム・ハンクスのレビューが掲載されて、一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たしたよう。
もうすぐ出る2作目は、再開発のため取り壊し目前のアパートを救おうとする女の子が主人公。絵本も出るよう。ふだんはイギリスの児童書を読むことが多いですが、ちょっと追いかけてみたい作家さんです。