推し活翻訳12冊目。The Snow Girl、勝手に邦題「スノーガール」
原題:The Snow Girl(Usborne PublishingLimited)
原作者:Sophie Anderson
勝手に邦題:スノーガール
概要と感想
ターシャと両親は、3か月前、南の海辺の町から、自然豊かな山あいのおじいちゃんの家に引っ越してきました。体調を崩したおじいちゃんから、もうひとりでは農場を切り盛りできなという手紙が届いたためです。
お隣は、牧場をいくつかはさんだ場所。ほら、ちらつく雪の向こうに、自分と同い年くらいのクララが、友だちのミカと遊んでいるのが見えます。でも、ターシャは訪ねていこうとはしません。もといた町で起こった出来事が胸に深く突き刺さっていて、冒険や探検をしたいとは思えずにいるのです。友だちなんかいなくても、子羊のフェルディナンドやおじいちゃんがいるからいいの、と心の中でつぶやいて、おじいちゃんの家へ戻ります。
今日は初雪が降りました。ターシャとおじいちゃんは、女の子の雪だるま「スノーガール」を作ります。それも、どこもかしこも本当の女の子のように。すそに雪の結晶模様がついた長いスカート、襟とそで口にフリルがあって、5つのボタンでとめた上着、波うつような長い髪、小さなあごも、目も、まつ毛も完璧です。スノーガールを見つめるターシャは胸がいっぱいになりました。
「この子が人間になったらいいのに。そうしたら、心から信じあえる本当の友だちができて、もう寂しくなくなるのに」
そして、初雪に願いをかけるとどうでしょう、スノーガールのアリアナが、命を得たように動きだしたではありませんか。ターシャは毎晩、大人たちに隠れて、アリアナと一緒に雪の森や湖や山や洞窟を探検して過ごします。アリアナのそばにいると凍えるほどの寒さですが、なぜか勇気がわいてきて、本当の自分にもどった気がします。まるで、月光に輝く凍った湖のように心がきらめくのです。
ターシャが毎晩、夢のような楽しい時間を過ごすあいだ、村は厳しい冬に閉ざされ、おじいちゃんの咳はどんどんひどくなります。いつもなら、ヤマネコが子育ての相手を探す声が聞こえたり、雪割草が芽を出したりするころなのに、いったいなにが起こっているのでしょう。
あるとき、アリアナが身ぶりで、雪割草が咲いたら村を離れると教えてくれます。ロシアの民話に伝わるように、スノーガールとは春が来たらお別れなのだと知ったターシャは、アリアナを引き止める手立てはないかと思い悩みます。でも、アリアナと終わらない冬に関係があるとしたら、引き止めておくのは、村のみんなやおじいちゃんにとって良いことではないはず……。
☆ ★ ☆
心に傷を負ったターシャが、スノーガールと出会うことによって自分を取りもどしていく前半は、ひたすら優しく美しいおとぎ話の世界が広がって、アンダーソンさんの持ち味がつまった雰囲気です。が、半ばにさしかかるころ、ついにターシャの苦しみの原因が明かされると、物語が大きく動きだします。
もっと言うと、前半と後半で、違う物語を読んでいるかと思うくらいで、ある意味、二度おいしい。既訳本の『ヤーガの走る家』をご存じの方は、これでもか、というほどいろいろ起こる展開と言えばわかってもらえるかもしれません。
自信を持てないでいたターシャが、大好きなおじいちゃんのために、何年も開かれていなかった村の春祭りを企画しようと思い立ち、まわりの人たちに働きかけていくようすは胸に響くものがあります。そして、ターシャをその気持ちにさせたおじいちゃんの思いが、真理をつくような深みがあって好き。
「もしかしたら、春が来るから祭りをするのじゃなくて、春祭りがヤマネコや雪割草を呼び、春を呼ぶのじゃないか」
冬の山の厳しさや美しさ、冬をたくましく生きるたくさんの生きもの、山の人々の暮らし、新しい友だちとのあいだに築かれる信頼など、ほかにも読みどころがいっぱいです。
実は、メリッサ・カストリヨンさんの装画イラストがあんまりかわいくて、思わずぽちった本なのですが、挿し絵も、ページのふちをぐるり囲んでいるイラストも、真冬の夜の夢のような物語の雰囲気にぴったりでした。
2023年に出版されたばかりなので、大きな賞の受賞歴はありませんが、ウォーターストーンズやテレグラフ紙のベスト本のひとつに選ばれています。
アンダーソンさんの作品は、推し活翻訳3冊目でも紹介しています。
アンダーソンさんの本は、小学館から長友恵子さんの訳で出ています。