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〈クロールと背泳ぎ〉①クロールへの道

 さて,これまでは,「水慣れ」「呼吸」「姿勢」「浮かぶ」など,水の中でより自由になるための基本的な課題について取り組んできましたが,ここからは,実際に「泳ぎ」に向けての授業になっていきます。

 ただ,「はじめに」のお話でも書いたように,「泳げるようにさせる」ありきで授業してしまうと,とたんに苦しいものになってしまうことに注意しましょう。

 本書の授業での「めあて」は,水の中での運動をたのしみ,新しい運動感覚を獲得していくことです。つまり,泳げることにつながる動きのトレーニングを積んでいるうちに,いつの間にか「泳げるようになっていた」ということを理想としています。

 授業の中だけでは,「泳げるようにならなかった」という結果であっても,それは「まだ」泳げるまでに達していないというだけで,「今日の授業はまた一歩,泳げる自分に近づくことができたんだな」と思えるような振り返りをさせてあげられたらいいな,と思っています。
 
とにかく,めざすのは「今日の授業もたのしかったな」と思ってもらえることです。そんなことを目標にして,泳ぎに向かう課題に取り組んでいってみてください。



 「おばけ浮き」にキックを入れていく運動です。脱力+推進力がもらえるので,気持ちよく進むことができるでしょう。

 しかしながら,子どもたちは「バタ足」となると,急に力が入ってしまって,うまく浮かんでいられなかったり,すぐに疲れてイヤになってしまったりします。力を入れずにバタ足することができないと,ウォーキングのような泳ぎはできません。

 そこで,「体に力をいれないようにして,ゆる~り,ゆる~りと,体をひねるようにしてキックしてみよう」と伝えてください。

 おしりがあがった方の足をかるーくキック。
 すーっと進みながら,逆のひねりからの,逆足のキック。
 手はおばけのまま。


 バシャバシャとバタ足するのではなくて,静かに進むようなバタ足を心がけましょう。



 「泳ごう」としてしまうと,急に体に力が入ってしまうものです。まずは,進まなくてもいいので,「脱力した状態でも体を動かすことができるのか」を試してみることから始めましょう。

 脱力で浮かんでいる「おばけ浮き」の状態から,体をひねりながら,上に来た手を脱力したまま前に,ぽちゃんと投げ出してみてください。その勢いで逆にゆっくりと体をひねって,もう片方の腕を「だるんだるん」にした状態のまま,前にぽちゃんと投げ出します。

 外から見たら,その場でうねうねしているだけに見えるかもしれませんが,それでOKです。まずは,「泳ごう」とか「進もう」としないで,脱力した状態で体を動かすという,力の入れ方(力の入れどころ)を確認するのです。



 「おばけの横浮き」の状態から,脱力した足をゆっくりと動かして,体を横に向けたまま,前に進んでみましょう。目線は下,前にある手は,だらんとおばけのように下げたままで。

 足は,魚のひれのようにひらひらと動かす感じのバタ足です。
 大きくスイングするというよりは,「小さくひらひらさせる」というのがポイントです。小さいペダルの三輪車をゆっくりとこぐ感じに,足を動かしてみましょう。

 イメージがわかない人は,おうちのベッドで体を横にした状態で,ゆっくり三輪車をこぐマネをしてみてください。そんな感じのバタ足を,水中でもやってみればよいのです。

 はじめにおへそを右に向けて泳げたとしたら,今度は反対におへそをを向けた状態でもできるかどうか,やってみましょう。
 スタート足のチョキの前に出す足を逆の足にすれば,逆の「おばけ横バタ足」になります。



 「おばけ横バタ足」に慣れてきたら,おばけになっていない方の手を使って,水をかいて進んでみましょう。これも,ゆっくりと,脱力した状態で,腕を前の方に投げ出します。

 手を遠くの方に伸ばそうとすると力が入ってしまうので,意識するのは「肘を遠くに出す」という感覚です。肘より先の手は,だるんだるんにしたままにしましょう。バタ足は,一度お休みしていてもかまいません。

 そして,水をかくときも,ずっと力を入れてかくのではなくて,水から出す前に後ろにかく瞬間があると思うのですが,そこだけ力を入れてかく感じです。しかも,ガッと勢いよくかいてしまうのではなく,胸の近くを通り過ぎた辺りから,水のかたまりをゆっくりと押してあげる感じでかきましょう。
 うまくかけたら,体を横にした状態で,すいーーっと水の中を滑るように進めるはずです。その気持ちよさを感じながら,ひとかき,ひとかき,あせらずに,ゆっくりとかいてみてください。
 右ができたら,左向きでもやってみましょう。



 「おばけ横バタ足の片手エンジン」をしているときに,前に出しているおばけの手の上に,エンジンで回してきたおばけを重ねるようにしてみましょう。ただし,ただ重ねるのではなく,前にある「おばけの手」よりも,もっと前に覆い被せるくらい,上にある肩を,下にある肩よりも前に出す感じでかぶせるのです。

 それを上のフリップの図で説明すると,下の肩(B)よりも,上の肩(A)を少しだけ前に出そうとしてみる,ということです。すると,びっくりするくらい自然に「くるんっ」とひっくり返って,逆の「おばけ横バタ足」になってしまいます。水の中でやる前に,おうちのベッドの上で体を横にした状態で試してみてください。

 これは,下の肩にあった重心が,前に出た上の肩の側に移動してくるからです。右ができたら,左でもやってみましょう。



 クロールの呼吸は,自分からしようとすると,必ず顔が上がってしまい,その姿勢によって足が下がってしまって,推進力がなくなり,沈んでしまいます。

 そこで,「おばけチェンジ」を練習しているときに,その回転した勢いを利用して,そのまま顔を横に向ける練習もしておくのです。そうすると,浮いたままの状態で,口だけ水面に上がることがわかると思います。そのどさくさのタイミングをつかんでおいて,そこで息を吸ってしまえばよいのです。

 コツは,回転しているときに,鼻から息を出しておくこと。そして,口が出たなと思ったら「ぷわっ」と吸ってしまいます。

 最初は,その一瞬が怖ければ,もう「背浮き」になるくらい回転して,ゆっくり呼吸するのでもよいです。とにかく,体は寝かせたまま,左右の回転だけで顔を水面に上げるようにしてみましょう。



 ここまでの動きをおさらいしながら,ゆっくりとつなげてみると,自然にクロールの泳ぎに近づいていると思います。

 競泳選手がやっているようなクロールをイメージして,それをマネした泳ぎ方をしてしまうと,ほぼ全力疾走の動きになってしまい,とても苦しくて,イヤになってしまうでしょう。
 そのイメージはとりあえず横に置いておいて,まずはゆっくりと,体を左右に倒しながら,ひとかき,ひとけりを大切にして,脱力したまま進んでみましょう。

 息を鼻から「んーーーー」と言いながらゆっくりと息をはき,「おばけチェンジ」の回転に合わせて横を向いて「ぷわっ」。手は,片方ずつゆっくりと,水をうしろに押すような感じでかいて,かいたときに横向きの体がすーーーっと水中を滑るような感じで進みます。足はゆっくりと三輪車こぎをするように動かしていればOK!

 それを意識して繰り返しているうちに,「気がついたら遠くまで来てしまっていた」…なんていう体験ができたら,もうあなたは「クロールが泳げた」といってもよいでしょう。自分の成長を大いに喜びましょう。

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たのしい教師へのトビラ

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