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国語における言語教育の意味について 【中学入試最前線4】渋谷教育学園幕張中学校(千葉県)

 国語という科目は特殊です。
 中学入試問題において、国語では、「論説文」「物語文」がよく出題されます。
 教えている現場の実感として、国語が得意だと言っている生徒は、「物語文」を得意とする場合がほとんどです。特に、女子の場合にその傾向が強いです。
 小学生の段階で、論説文が得意だと言っている生徒に、ほとんどお目にかかったことがありません。

 論説文とひとことで言っても、その範囲は膨大です。
 これを大学の専門課程に照らし合わせてみると、今の中学入試の傾向をつかむことができます。大きく分類して、「社会科学」「人文科学」「自然科学」の3つの分野になります。

 「社会科学」の分野では、主に政治学と経済学が、近年多く出題されています。特に、IT技術と経済に関する問題が多いように思います。
 「人文科学」の分野はどうでしょう。文学・歴史・哲学・宗教・倫理などが範囲となりますが、最近、哲学の問題が多く見受けられます。なかでも、鷲田清一さんの『顔の現象学』は頻出されています。


 「自然科学」の分野では、生態学と環境問題が多く出題される傾向があります。生物学などもよく出題されています。
 以上のように、これら全てが出題範囲となるため、かなりの準備が必要であることは明確でしょう。

 国際人の養成教育を掲げる学校(都内のミッション系女子中学に多くみられます)では、言語学に関する出題が多いという実情があります。
 ヨーロッパでは、言語学がものすごく発達しており、細かく専門的に分類されています。

 一例をあげると、統辞法とうじほう(シンタックス)という言語学の一分野があります。文脈における一つの統一的法則性であり、文法や単語に出てこない存在を問う仕組みのことを指すのですが、このような細かな分析や研究が日夜行われているのが、ヨーロッパの学問なのです。
 言語学の分野において、中学入試で一番に念頭におくべきものとしては、ソシュールの「記号論」が上げられるでしょう。


 今教えている生徒が、難関校模試の国語で、ほとんど0点をとった問題がありました。元々、国語の偏差値65をとることもある優秀な生徒だっただけに、かなり驚いたのですが、その問題を見てみると、ソシュールの記号論の理解が背景に問われているものでした。

 加えて、問題の中でロラン・バルトの哲学が展開されていたのです。バルトには『表徴の帝国』という有名な著作があり、写真やファッションなどの視覚的記号の象徴的意義を問う哲学を展開しています。

 このように、ふだん授業で扱うことがない哲学の問題を、進学塾の模試では、平気で出題してきます。そのため、正解が導きだせるように教えていく必要があります。
 言語教育とは、このような「記号論」や「統辞法シンタックス」、「表現技巧レトリック」などの言語学を教えることを指します。

 そのため、ジャンルの違う物語文の問題で、主人公の心情を問うようなものばかりを繰り返し実践していても、まったく歯が立たないのは当然です。

 後日、先ほどの生徒には、外山 滋比古さんの『日本語の論理』(中公文庫)と、森本哲郎さんの『日本語 表と裏』(新潮文庫)を読むようにアドバイスしました。単に触れたことがなかっただけなので、材料さえ与えれば、どんどんと吸収して、点数がとれるようになるでしょう。ただし、これは優秀な生徒に対してのみ有効なアドバイスとなりますので、ご注意ください。

 国語教育において、言語教育が欠かせない理由。それは、以上のような入試の実態があるからに他なりません。

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