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有機農業のまちはどうやって生まれたのか?

約1年ぶりの新刊が今日から書店に並び始めます。『有機農業はこうして広がった』(谷口吉光編著、四六判、272ページ、本体2000円+税)です。 

 本書は、社会学者の著者、谷口吉光さんが、「有機農業は日本で広がっていない」という通説に疑問を抱いたことから出発しました。多くの人が「オーガニック」という言葉に親しんでいるにもかかわらず、日本では「広がり」が、耕地面積や農家戸数という視点から語られてばかりです。

著者の谷口吉光さん

 また、近年、千葉県いすみ市のオーガニック給食に代表される、有機農業を使って、特色のある政策を進める地方自治体が増え、一つの社会現象となっています。

 こうした生活実感や社会現象とのギャップを出発点に、本書は本当の「有機農業の広がり」はどのようなものか明らかにすることにしました。

 人びとがつながり行動し、輪が広がっていく様子を「有機農業の社会化」と呼び、これが具体的にどのように広がっていったかを調査しました。(具体的には、有機農業の公共財としての価値や有機農業が地域にもたらず恩恵や機能に注目)

 調査は「有機農業のまち」として名高い4つの市町村(千葉県いすみ市、岐阜県白川町、山形県高畠町、大分県臼杵市)で行われました。


手書きで恐縮ですが、調査地のおおよその位置関係です

 有機農業が「点」であったところから地域に広がるまで、つまり「初発のキーパーソン」がどのように「価値転換」を通じて地域へ広げていったのか、町ごとに異なる4つのストーリーが描かれました。


千葉県いすみ市(2018年)環境への取り組みは有機給食事業以前から始まっていた。

 後半では、4自治体の調査を経てわかった事実をもとに、国の「みどりの食料システム戦略」への提案が収録されています。また、社会を持続可能にするためにできることは何か、座談会を通じて読者に語りかけています。

 地域の環境と農と食を守る存在として、今後ますます有機農業は存在感を増していくことが考えられます。「広がり」が小さく評価されていることを疑問視し、どのようにして広がっているのかを丁寧に深堀した調査記録が収録されている、貴重な一冊です。ぜひご一読ください。


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