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『童話?』それぞれの光

「先生~、待ってぇ~」
レタスケ先生は、算数の授業を終え、
三角定規を抱えながら職員室へ続く廊下を
歩いていた。すると、後ろの方から叫ぶ声がした。
「待ってぇ~」
「どうしたんだ?トマ子ちゃん、そんなに慌てて、何かあった?」

教室では、ナス太郎とエダマメ男がにらみ合っていた。
どちらも一歩も譲らずという具合で、黒板の前で仁王立ちしていた。

ナス太郎が、エダマメ男の足を踏んだとか、踏まないとか?
「お前が悪いんだよ!足を通路に出しているから悪いんだよぉ」
「踏んでなんかないっ。お前の足を避けて通っただけだ」
「何おぉ~。いっつも気に入らないな。
そうやって、いい子ぶりやがって!」
「いい子ぶるって、誰が?俺がか?わけわかんねぇし・・・」

ふたりはどうでもよい小さなことを大げさにして、いつも言い合っていた。
今日はもう少しで、取っ組み合いのケンカに発展しそうな勢いだ。
天気のせいかわからないが、いつもより、テンションが高い。
ナス太郎は体格がいいので、エダマメ男は
すぐに倒されてしまうだろう。
だが、神様はうまく采配した。ナス太郎はめったなことでは手を出さない。
手を出すほうはいつも、エダマメ男。
ナス太郎はどちらかというと体とは逆で気が弱い。
なのに、今日はいつもと違って気分をあらわにしている。
虫のいどころがわるかったのだろうか?

「まあ、まあ。もう、そのくらいにしておけ」
優しい声でレタスケ先生が二人の仲を取り持とうとしている。
「そうよ、そうよ。ケンカはよくないわ」
トマ子ちゃんも遠巻きに甲高い声でちゃちゃを入れた。

「ちぇ。仕方ないなぁ。先生が来ちゃったしなぁ。
こんくらいにしておくか・・」
エダマメ男はふてくされて、振り向きざまに
「ナス太郎、おぼえておけよ」と捨て台詞をはいて、教室を出て行った。

ナス太郎は、エダマメ男がどうしてそんなに自分につらく当たるのかわからなかった。
そういえば、クラスメートはみんな自分につらく当たる気がする。
みんなの気分が悪いようなことは絶対にしないようにしているし、
目だったこともしていない。
青くぽってり太った体型をイジられることもよくあった。

「俺のどこが悪いのかなぁ・・」

学校が好きなナス太郎は、クラスのみんなが自分に冷たい態度をとるのが
辛かった。
学校でみんなと楽しく過ごしたいと毎日毎日、寝る前に神様にお願いしているくらいだ。

ナス太郎はいつも思っていることをレタスケ先生に
今日こそは相談しようと思った。
「先生、ちょっと話してもいいかなぁ?」
レタスケ先生は少しびっくりして目をぱちくりしたが、
優しく頭を撫でて微笑んでくれた。
「で?なんだ?」
「先生、僕は教室のみんなと仲良くしたいんだ。
みんなとケンカなんかしたくない。
普通に楽しく過ごしたい、それだけ。
なのに、みんなはそうじゃないみたいなんだ。
なにかというと、僕のこと笑ったり、ひどいこと言ったりする」
「そうだったんだ。今まで気が付かなくてごめんな・・」

その言葉を聞いて、ナス太郎は心が温かい手で包まれたような
優しい気持ちになった。
気持ちが楽になったせいか、いつも心の奥底でくずぶっていた思いがこみ上げて本音が出てきてしまった。
「みんなが、“ぼけなす”とか“おたんこなす”とか言うんだ。
それって、悪い意味だよね?
なんで、僕の名前を使って意地の悪いことをいうの?
僕は名前のせいでいじめられているのかもしれない・・・。
こんな名前、もう、いやだ!」
「名前のせい?本当にそう思うの?」
「だって、そうなんだもの」
ナス太郎のいつものぴかぴかの顔に少しシワがよっていた。
レタスケ先生はそれを見て、胸が痛んだ。
-------何か元気の出る言葉はないか?----------

「そうだ!」
レタスケ先生はパリッとした前髪をすっと撫でて、
姿勢を正してナス太郎を見た。
「ナス太郎君、お正月って好き?」
突然の話のフリにナス太郎はびっくりしたが、
レタスケ先生の声が優しかったのですぐに答えた。
「うん、好きだよ。だって、美味しいものたくさん食べて、お年玉がもらえるもん」
「そうだよね。お正月ってみんな好きだよね。
お正月の二日目の晩に見る夢を初夢っていうのだけど。何をみると縁起がいいか知っている?」
「お母さんがなんか言っていたけど、覚えてないなぁ~」
「一富士二鷹三茄子!わかる?」
「あっ。なすび。なすびってナスのことだよね?」
「そうだよ。ナスを見ることは縁起がいいんだよ。レタスでもなく、じゃがいもでもなく、きゅうりでもなくてね」
「そうかぁ・・・。ナスも良いことのたとえとして使われているんだね。
悪いことばかりに気がいって、ちっとも気が付かなかった」
「そうだね。でも、良いことってすぐに隠れちゃうかもしれないね。
だから、悲しいこと、悪いこと言われても、自分には必ず、良い面があるってことを忘れちゃいけないんだ。隠れているだけなんだからね。
そう思えば、必要以上に悲しくなったりしないだろう?
ナス太郎君が、悲しい顔をしてなかったら、
相手もだんだんつまらなくなって、
いじわるなことを言うのをやめるようになるってことさ。わかる?」
「うん、先生、わかった気がする。」
「それに、もうひとつ。これは、みんなに言えることだけど、みんなには
すごい栄養の光が隠れているんだ。ナス太郎君にはポリフェノールが。エダマメ男君にはイソフラボンが。みんなのそれぞれがすごいんだよ。
だから、どっちが上か下かもないんだよ」
「そうなんだね。ありがとう、先生。
良いことはかくれんぼうが好きなんだね。
よくわかった。僕、もう大丈夫だよ」

数日後、レタスケ先生は教室の中をこっそりと覗いていた。
生徒たち、それぞれが本を読み合って感想を言い合っている最中だ。
「すごい!エダマメ男君はそんな感じに育ってきたんだ」
「ナス太郎君だってすごいよ」
「トマ子ちゃんも」
互いを認め合って、みんなが笑っている姿に、
明日の授業は親睦を深めるゲーム大会にしようと、レタスケ先生も微笑んだのだった。

~お読みいただきありがとうございました。
短編小説でもなく、純粋な童話でもなく、なので「?」を
つけてみました。~

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