【#54】サターンか、プレステか。どっちを買った?
1997年(平成9年)7月27日【日】
半蔵 11歳 小学校(5年生)
1995年の年末に発売された当時、4~5万という衝撃的な価格だった“次世代ゲーム機”は、値下がっていた。
2万円前後で買えるようになっていたのである。
しかし、僕ら小学生に両方買うことはできない。
そこで、次の問題が生じるのである。
多くの友人が悩み、学校で議論を重ねていた。
しかし、僕に迷いはなかった。
「コレください」
僕はレジに箱を置いた。
値下げと共にデザインも新しくなった、セガサターンである。
「きみ、サターン買うの?プレステじゃなくていいの?」
大学生くらいの店員さんが、片方の眉を吊り上げて聞いてくる。
買う前にこんなことを聞かれるなんて初めてだった。
「プレステはドラクエの続編も出るって話だから、将来性があるよ」
セガ好きの僕がセガサターンを選ぶことは、当然のことだった。
水が上から下に流れるように、これはもう“決まっている”ことなのだ。
「セガサターンがいいんです。あと、このソフトもください」
「『天地を喰らうⅡ 赤壁の戦い』か・・・・・・このゲームの価値がわかる君ながら、セガサターンを買っても大丈夫だろう」
お母さんにお金を払ってもらい、僕は軽い足取りでお店を後にした。
ジャスコの中にあるこの大型ショップは、ゲーム・本・音楽CDが一体となって売られている。
お客さんは誰もが笑顔で、好き好きに商品を手に取っていた。
最近よく聴く曲が流れているが、曲名はわからない。
雑誌コーナーの前を通ると、『ジャンプ』が並んでいた。
表紙には、麦わら帽子をかぶったキャラクターが描かれている。
(新連載のマンガかな?)
少し気になったが、今は一刻も早くセガサターンをやりたい。
思いっ切り夏休みを楽しもう。
お母さんを置いていかないぎりぎりの速度で、早歩きする。
「げ」
なぜここで会ってしまうのか・・・・・・
ショップの入り口で偶然会ったのは、愛川さんだった。
「『げ』って何ですか?」
白いワンピースを着た愛川さんが、にらんでくる。
「いや、何でもない。愛川さんもゲームを買いに来たの?」
「ち、ちがいます。私は映画を観に来たんですよ。『コナン』の映画です」
愛川さんは、僕が抱えているセガサターンの箱を見つめている。
「男子って、ほんっとゲームが好きですね・・・・・・」
「人の勝手だろ?」
それに、僕はゲームばかりやっているわけではない。
月に1,2回の休息日以外はスポ少のサッカーをしている。
「そうかもしれませんね。では、また学校で」
5年生になって約四か月。
愛川さんの男子嫌いを思い知っていた。
先週は掃除の時間にホウキで『牙突』の練習をしていたら、スネを蹴られた。
イイケンなんて、ミニ四駆を学校に持ってきたことを先生に報告され、『シャイニングスコーピオン』を没収されていた。
(夏休み明け、また顔を合わせるのか・・・・・・)
いや、今考えても仕方がない。
僕はお母さんの車に乗り込むと、すぐに『天地を喰らう』の説明書を取り出した。
ゲームを買った帰り、車の中で説明書を読むのがたまらなく好きだった。
(つづく)