【#79】共闘せよ!
1999年(平成11年)6月7日【月】
半蔵 中学校1年生 13歳
「この建物に、いったい何があるのだ?」
僕の出席番号は、男子の7番。
リリーは、女子の7番。
4月、担任の先生に、
と言われた。
実に面倒だ。
だが、どうせ1年間付き合うなら、楽しくやった方がいい。
そこで、僕はリリーと親睦を深めるため、ゲーセンに誘ったのだ。
「この建物には、すてきな機械がいっぱいあるんだ」
「よくわからんが、一緒に行く必要があるのか?」
無論、テスト期間中にゲーセンに行ったことが露見すれば怒られてしまう。
だが、一人より二人の方が、怒られるときの圧力も分散される。
リリーを誘った理由は、親睦を深めるためだけではない。
「|クレイジータクシーをプレイしている人がいるじゃん!」
「なかなか軽快な音楽だな」
「ダンスダンスレボリューションもあるな!」
「あの人は、機械の上で何をやっているんだ?」
しかし、お目当てはこれらのゲームではない。
「あったあった」
「なんだこれは」
「これは軍人が主人公のゲームだ。これなら、リリーも興味持てるかなって」
「この男が持っているハンドガンは、M1911か?」
「いや、そこまでは知らんけど・・・・・・」
質問をしたということは、興味を持ったのかもしれない。
僕は2プレイヤー側の椅子にリリーを座らせ、自分も1プレイヤー側に腰を下ろす。
「距離が近いぞ。不快だ」
「しょうがねーだろ。さっ、始めるぞ」
100円玉を2枚投入し、スタートボタンを押す。
『MISSION START!』
「バカ!前に出すぎだ!」
「問題ない」
案の定、リリーが操作する女性キャラは敵に突っ込んでいく。
『ヘヴィィ・マスィンガン!!』
リリーのキャラが、武器アイテム『ヘビーマシンガン』を取得した。
攻撃範囲が広がったキャラクターは、止まることなく前進する。
「なかなか爽快なゲームではないか」
「気に入ったか?よし、そっちの『ヘビーマシンガン』は、僕にちょうだ・・・・・・」
『ヘヴィィ・マスィンガン!!』
「バカ!アイテムを独り占めするなよっ!」
当たり前のように僕を無視して、リリーは全力疾走で突き進む。
リリーのキャラがやられないよう、敵の戦車が出てくる場面では手榴弾を連投して切り抜ける。
『エネミィイ・チェイサァア!!』
『ラケッ・ランチャー!!』
リリーには、『人にアイテムを譲る』という発想がないらしい。
次々と武器を入れ替え、猛然と敵を蹴散らしていく。
「わかった。アイテムは全部やるよ、だが、少し先に出てくる味方の戦車は、僕にくれよ」!
「黙れ。私の方がうまく乗れる」
「おい!待てって!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1面をクリアすることすらできなかった。
序盤、リリーが突っ込んでもやられなかったのは、ビギナーズラックだったのだ。
ボスになると、単なるゴリ押しは通じない。
「あのような重戦車に、歩兵2人が突っ込むのが悪いのだ。作戦から見直す必要がある」
「そういうゲームじゃないから・・・・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのあとも少し遊び、僕たちはゲーセンを出た。
「楽しかったか?」
「よくわからない。ただ・・・・・・」
リリーは、僕から視線を外し、地面を見つめた。
「私が探しているものは、ここにもなかった」
普段は表情の変化を見せないリリー。
だが、このときの顔は――
(つづく)