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「揚げたて」と表現できるのは、いつまで?

スーパーで惣菜のカラアゲを見つけた。
値段の横に「揚げたて!」と書いてある。

「夕飯はコレにしよう」

だが、手に取ってみると全然温かくない。

そこで、ふと思う。

”揚げたて”っていつまでなんだ?

揚げた直後(1~2分後)なら、堂々と”揚げたて”と言えよう。
5分たっても、きっと”揚げたて”だ。
では、10分、15分と経過したら?


「温かいうちが”揚げたて”なんじゃないの」

と考える人もいるかもしれない。


だが、「温かい」とは具体的に何℃・・・・・・なのか?

本当に、温かければ”揚げたて”と言える・・・・・・・・・・・・・のか?



というわけで、今回のお題。


1.調査


”揚げたて”とは、いつまでなのか。
そもそも、どうやって調べればいいかわからない。


だから、とりあえず以下の方法で調査してみることにした。



カラアゲのレシピは、以下の本のものを使用する。

ほりえ さちこ 『サラ弁』
主婦と生活社/2015年8月


ガッツリ系の弁当レシピが載っている、魅力的な本だ。
ただ、味がちょっとマイルドなのでニンニクを加えることにする。


早速、鶏モモ肉(2枚分:約600g)をタレに漬け込む。


包丁よりキッチンバサミで切る方が簡単



片栗粉をまぶし、


四角いボウルを使用
場所はとらないし、使いやすいし最高



油で揚げる。

「バチバチバチバチ!!」
クラシックより美しい音色


「実食用」と「温度計測用」とで、カラアゲを分けたら、

これは「実食用」

調査スタート!!




これを食べるのは無理だった。


揚げて1秒後のカラアゲからは、まだ油がしたたり落ちていた。
これを口に突っ込めば、ヤケドは必至。
本能的に断念する。

写真を撮る余裕すらなし!!

ただ、油で照り輝くその姿は、食べなくても”揚げたて”だとわかった。





一度にすべてを揚げることはできない。
この写真に写っているのは、第1グループ


温度は89.0℃!!

あまりにも熱そうなので口に突っ込むことはできない。
はしっこをかじると、鶏のアブラが、じゅわッと口内に広がる。

片栗粉で揚げたからか、衣は「カリカリ」ではく「バリバリ」と堅牢な感じ。この食感が実に楽しい。


文句なしの”揚げたて”であった。





温度は88.5℃と、ほとんど変わっていない。




”揚げて1分のカラアゲ”を口に突っ込むことはキケン。

だから、食いちぎる。
皮とおぼしきところを狙い、食いちぎる。

瞬間――ニンニクの快香が、鼻を突き抜けた。

私が男子高校生だったら、

「おっかぁ!!白飯もってきてくれ!!」

と叫んでいたに違いない。

満場一致で”揚げたて”と認めれるだろう。





やらかしたッ!!


3分ジャストで撮影することに失敗。(写真のタイマーに注目)
第2グループのカラアゲに片栗粉をつけていたら、こうなってしまった・・・・・・。
(慌てたので被写体がナナメに傾いてる😱)


気を取り直して、実食。
さきほどに比べ温度は約6℃低下しただけだが、数字以上に食べやすそうである。
カラアゲを上の歯と下の歯で挟み込む。
そのまま加圧していくと、鶏肉はやや抵抗をみせた。
が、臨界点を超えると、ブチっと肉が裂けて、旨味が口内を走り回る。

「うんま、うまうまぁ♪」とつぶやいてしまうオイシサだ。

力強く”揚げたて”と断言できる。






”揚げた直後”より、温度は約10℃低下。
そのため、さきほどより大胆にかぶりついてみる。

た、たまらん・・・・・・。

「本日は、日曜。
 天気は、快晴。
 穏やかな休日、カラアゲにかぶりつくことは、これ以上ない幸せ!」

と思ってしまった。
至福の”揚げたてカラアゲ”である。


堂々としている



が、”危険なまでの熱量”が失われているのは事実。
10人いたら1,2人くらいは、

「”揚げたて”じゃない!」

と言うかもしれない。





第2グループが揚がった


温度は20℃近く低下。
「”揚げたて”ではなくなったか?」と思いながら口に運ぶ。
すると、カラアゲが、

「熱はある程度失っても、誇りは失っちゃいないぜ」

と語りかけてきた。
食べた具合も、放置されたカラアゲとは一線を画す。

”揚げたて”と言ってもよいだろう。


ただ、惣菜コーナーなどでコレが”揚げたて”として提供されていたら――不平不満が多少出てもやむを得ないかな、と思う。





温度は半分以下に。
食べてみると、熱はない。

「さっきまでは温かかったんだな」

というのがわかる程度。

カラアゲ自体は十分においしい。
しかし”揚げたて”と言うには無理がある・・・・・
ハッキリとそう思った。

というわけで、調査はここで終了。




では”揚げたてのカラアゲ”から”揚げたてではないカラアゲ”に変化する境目はどこにあるのだろうか?


調査をしてわかったが「10分までは”揚げたて”、10分01秒以降は”揚げたて”ではない」などと数字で区切りをつけることは現実的ではない


そこで、国語教師らしく、言葉の面で考えてみることにする。


2.思考


”揚げたて”の「たて」の意味は、なんとなくワカル。
だが、”なんとなく”ではダメだ。
しっかり辞書で調べることにした。


『日本国語大辞典』(第二版)

動詞の連用形に付いて、その動作が終わって間もないことを表す。「炊きたての御飯」「蜜柑のとれたて」など。

松井 栄一など編『日本国語大辞典』(第二版)第8巻
p1000
小学館/2001年7月


『三省堂国語辞典』(第八版)

そのようにしたばかりであること。「<下ろし/洗い>―のシャツ・ふかし―のまんじゅう」

見坊豪紀など編『三省堂国語辞典』(第八版)
p903
三省堂/2021年12月


辞書の説明を参考にするなら、”揚げたて”とは、

◆揚げてから間もないこと
◆揚げたばかりであること

と定義できそうだ。


だが、「間もない」という表現ではかなり幅がある気がする。
【1分経過】までを「間もない」と考える人もいれば【15分経過】までも「間もない」と考える人もいるだろう。


次に、「~~たて」と表現できる言葉を思いつくだけ並べてみる。

〇揚げたて
〇とれたて
〇できたて
〇炊きたて
〇焼きたて
〇洗いたて
〇下ろしたて
〇塗りたて


うーん、

食べ物に関する言葉が多い気がする。



〇揚げたて(のカラアゲ)
〇とれたて(の野菜)
〇できたて(の弁当)
〇炊きたて(のごはん)
〇焼きたて(のパン)


焼きたてパン
(photoAC)より


では、「~~たて」と表現できない・・・・・・言葉を思いつくだけ並べてみよう。

×結びたて
×破りたて
×食べたて
×送りたて
×泣きたて

ふむ。


規則性ってあるのかな?
特に何も思いつかないが・・・・・・。


3.追究


「~~たて」の秘密を明らかにしたいッ。
でも、どうすれば・・・・・・?

ここで、大学の先生が、

「言葉について考えるときは、比較することが大事です」

と言っていたのを思い出す。


「~~たて」と似た言葉はなんだろうか。


あ!
私が言い訳としてよく使う言葉、「~~したところ」がある!

【例】(友人と待ち合わせをして)

友人「いつ来るの?😡」
私「今、家を出たところだよ!!💦」


では、「~~たて」と「~~したところ」を比較しよう。
(「~~したところ」は”今”をつけたほうが自然なので”今”をつける)


◆とれたての野菜
◆今、とれたところの野菜

◆焼きたてのパン
◆今、焼けたところのパン

◆下ろしたてのTシャツ
◆今、下ろしたところのTシャツ

比べてみてワカった。






「~~たて」の方は価値・・がある!!
(と、感じられる)


◆とれたての野菜
→「新鮮そうだ!」

◆今、とれたところの野菜
→(特に感想なし)

とれたてのナス
(photoAC)より


◆焼きたてのパン
→「ふわふわでおいしそう!」

◆今、焼けたところのパン
→(特に感想なし)

◆下ろしたてのシャツ
→「着心地がいいんだろうな!」

◆今、下ろしたところのシャツ
→(特に感想なし)


「~~たて」は特別な価値を含んでいる。
こう考えれば「結びたて」という表現が不自然なのもわかる。
「結びたてのネクタイ」に、人は価値を感じないからだ。

結びたてのネクタイ
特に価値はない
(photoAC)より



さらに、「~~たて」によって表された価値は時間と共に下がっていく。

◆もぎたてのミカン
→時間経過と共にミカンは劣化


だから、時間経過で価値が失われにくい・・・・・・ものには、「~~たて」は使いにくい。

×作りたての”おせち料理”
×揚げたての”ポテトチップス”


4.結論


以上のことから”揚げたて”も特別な価値を含んでいると思われる。
では、その「特別な価値」は誰が感じるのか?




食べる人・・・・

だろう。



食べた人が、

「このカラアゲ、熱々だな。おいしいな。揚げたてだな!!」

と感じられれば、”揚げたて”と言えるのではないだろうか。
”揚げたて”というのは、受け手の価値判断を表す、実に主観的な言葉なのだ。



というわけで結論。


さーて、スッキリしたところで、

きたて、打ちたて、ゆでたて」のそば

でも食べに行くか!


冷やしたぬきそば
(天カスで、麺が見えない😅)



自分の考えが100%正しいとは思っていません。
異論・反論・質問があれば、ぜひコメント欄で教えてください😆

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