【#68】修学旅行編② あなたの思い出を教えてください
1998年(平成10年)6月18日【木】
半蔵小学校6年生 12歳
男子の【三大好きな言葉】といえば、なんだろうか。
僕にとって、それは――
『強い』『速い』『でかい』だ。
目の前の存在は、『でかい』という点で、究極だった。
「造られた奈良時代から残っているのは、体部のごく一部と台座の一部のみです」
ガイドさんが何か言っているが、解説などはどうでもよい。
修学旅行で学んだのは、『奈良はかっこいいものが多い』ということだった。
東大寺の南大門にあった金剛力士像は、二体一組で強力な物理攻撃を仕掛けてきそうである。
新薬師寺にあった十二神将なんて名前がかっこよすぎる。
それぞれ、武器が違うのもすばらしい。全員、別々の特殊攻撃を繰り出してくるのは間違いないだろう。
いま、目の前にある大仏は、とにかく大きいのがいい。
『でかけりゃいいってもん』という考えは、きっと今も昔も変わらないのだ。
「おーい半蔵、柱くぐりしようぜぇ!」
柱くぐり?
なんだか知らんが、やってやろうじゃないか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕方。
第一のメインイベント、自由行動の時間がきた。
自由行動の時間は、1時間しかない。
僕は“絶対に買わなくてはいけない土産”を素早く購入すると、イイケンを誘った
目的は、インターネットで「奈良 ゲーセン」と調べておいたので、すぐに見つかった。
「おぉっ、あった!」
知らない場所のゲーセンというのは、どうしてこうもワクワクするのだろう。
「『電車でGO!』があるじゃん!」
特に電車が好きというわけではないので、プレイすることはない。だが、大きな筐体は見るだけで楽しい。
「なんかオモシロそうなのがあるぞ!!」
「ファイナルファイト系だな!」
「お前らどっから来たの?」
最初は、自分たちに言われた言葉だと気づかなかった。
「無視すんなよ、田舎モン」
肩を掴まれ、振り返る。
そこには、僕らと同じ小学生らしき男子が3人立っていた。
「・・・・・・岐阜だけど」
「ギフだって!」
「俺の言ったとおりだったろ?」
「マジで田舎モンじゃん!!」
3人組は、楽しくて仕方がない、という顔をしている。
「なんだと!?」
前のめりになるイイケンを右腕で制し、気になることを質問した。
「なんで僕たちが地元の人間じゃないってわかったんだ?」
3人は、顔を見合わせる。
一瞬、間があったあと、笑いながら答えた。
「木刀やヌンチャク買ってるから。そんなもの買うの、田舎の修学旅行生だけだよ」
木刀なんて、買うに決まってるじゃないか・・・・・・。
現実世界で『武器屋』の買い物ができるなんて、修学旅行だけなんだぞ。
「お前らはどこから来たんだ?」
「東京だよ、東京」
勝ち誇ったかのように髪をかき上げる。
「ギフの人も、ゲームやるんだね~」
明らかに、バカにした言い方だった。
今こそ、『天翔龍閃』を使うときなのか?
「やったらあかんのか?なんなら、勝負してみるか?」
「じゃあ、あれで対戦しよう」
月華の剣士――
「半蔵、いけるか?俺はこのゲームあんまりやってないんだ」
「大丈夫だ」
正直、自信4割不安6割というところだった。
このゲームはクリアしたことがあるし、『ネオジオフリーク』も読んでいた。
だが、やったことがないのだ。
対人戦は・・・・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こいつ!!なかなかやるじゃん!」
「おいっ、負けんなよ!」
実力は互角だった。
勝負は最終戦に、もつれ込む。
『三本目、始めっ』
その時だ。
「お前ら、何やってるんだ!!」
後ろを振り返ると、目を吊り上げた校長先生がいた。
「先生、この勝負が終わるまで待って!!」
「待てるか、アホォ!」
ゲーセンから無理矢理引っ張り出され、外に連れていかれる。
路上での説教は、30分も続いた。
(耐えろ!これを耐えれば、今夜のお楽しみが待ってるんだ――!
(つづく)