【#72】昼休みの弁当食べ過ぎ注意!
1998年(平成10年)10月31日【土】
半蔵 小学校6年生 12歳
プログラムナンバー・1番。『ゴーゴーゴー』です。
ぼくらーは、かがやーくーー
(ぼくらーは、しろーいいなずまだー)
たいよぉーの ようにーー
(つきーすすーむ ひかりのや)
もえあがーる きぼぉーう
(かみなりのおと、とーどろかせぇ)
ちかーらいっぱい、がんばろう!!
(元気いっぱい、がんばろう!!)」
口を裂けんばかりほど大きく開けて、『ゴーゴーゴー』を歌い切る。
この曲が点数に加えられることはないが、声の大きさで赤組に負けるわけにはいかない。
『それでは、赤組と白組は、団席に戻ってください』
暑い。
まだ開会式が終わっただけなのに、汗が噴き出してくる。
天気予報によると、今日は9月上旬並みに熱くなるらしい。
だが、白組団長として、絶対に負けらない。
小学校最後の運動会が――始まる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日グラウンドに運んでおいた椅子に座る。
タオルと水筒を椅子の下に置くと、女子たちが早くも入場門に整列していた。
「最初は女子の騎馬戦か。初戦に勝って、勢いつけたいところだな」
「大丈夫だ。策を授けてある」
僕は、応援団長専用の地面まで届きそうなハチマキを外し、みんなと同じ普通のハチマキを結んだ。
「はんぞぉ、約束通り勝つからねー!!」
先頭に並ぶ美緒が、手を振っている。
美緒は、大将の目印である法被を着ていた。
修学旅行のとき、告白を断ったが、美緒との関係は良好だった。
気まずくなるのは嫌だったので、ありがたいことである。
『プログラムナンバー2番。6年生女子の騎馬戦です』
放送係のアナウンスと共に、女子が整った行進で進んでいく。
『騎馬戦のルールは、“大将式”です。法被を着た大将の帽子を取った方が勝ちです』
(頼んだぞ、美緒)
赤組団長は、天光寺だ。
能力は高いくせに行事にあまり参加しない天光寺が立候補したと聞いたときは、驚いた。
なぜ6年生になって、大役を立候補したのだろうか?
「美緒―、頼んだぞ!!」
理由が何であれ、天光寺には負けたくない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ピストルの音と同時に、10組前後の騎馬が大将騎馬の前に整列した。
「おぉ!『専攻の陣』か!」
美緒に授けた策とは、『ドラゴンフォース』を貸して集団戦について学ばせるということだった。
白組の騎馬は、等間隔の見事な陣形を作り、待機している。
(さーて、敵は無様に突っ込んでくるか?)
ふつうの小学生には、『陣形』という発想なんてないだろう。
無計画に突っ込んでくる敵を、集団の力でねじ伏せればよい。
だが――
敵の方を見た僕は声を失った。
(敵も陣形を組んでいやがる!!)
整った隊列を見る限り、見よう見まねで組んだものとは思えない。
(赤組の中にも、『ドラゴンフォース』経験者が!?)
赤組の団席の前で、声を張り上げる天光寺の方を見る。
(アイツもゲーム好きだもんな・・・・・・もしかしたら『ドラゴンフォース』をやっていたのかも)
敵は陣形を組んだまま前進してくる。
こうなったら美緒に任せるしかない。
仲間に【全軍前進】や【上下分散】といった指示を適切に出し、勝利に導いてくれるはずだ。
「全軍突撃!!」
え!?
緒は最も予想外の指示である【全軍突撃】を発令した。
「やったるわ!」
「容赦せんでなぁ!!」
白組の騎馬一騎が敵陣に突っ込み、騎馬が体当たりをかます。
そのままの勢いで騎手が敵の騎手を押し倒した。
「いま、押してたよな・・・・・・?」
「騎馬戦って、帽子を取り合うんじゃないのか?」
そのあとは混戦だった。
「ブスが!!」
「あ?なめんなクソブス!!」
腕のつかみ合いだけでなく、髪を引っ張ったり服をつかんだり、無茶苦茶だ。
『赤、がんばってクダサイ。白、がんばってクダサイ』
騎馬戦の乱戦と似合わない、棒読みの応援が放送委員会から届けられる。
まぁでもゴメスが緊張しながらも放送委員の仕事をやっているからバカにしてはいけないか。
「お前の時代は終わりなんだよ!!」
「あんたの私服のセンス、おかしいから!!」
よく見ると、騎手だけでなく馬たちも蹴りをかまし合っている。
(女子って、こえぇな・・・・・・これからはあまり怒らせないでおこう)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
せっかく女子が騎馬戦で勝ってくれたのだが、勢いは続かなかった。
午前中最後の競技が終わり、点数は272対289。
(まだ巻き返せる。大丈夫だ)
『午後の部は13時30分からです。それでは、昼食の時間にしてください』
放送委員のアナウンスにより、僕たちは散っていく。
さぁ、弁当を食べたら後半戦だ。
(つづく)
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