【#32】生活科という授業
1994年(平成6年)10月3日【月】
半蔵 8歳 小学校(2年生)
「オッくんは、バッティングセンターかぁ!」
今日は、待ちに待った“おまつり”の日である。
優菜ちゃんが夏休みの時に言っていた“アレ”とは、生活科の授業の“おまつり”のことだった。
各自が作った“お店”を、この日だけ使える手作りのお金を払って楽しむのだ。
体育館には、ところせましとお店が広がっている。
「半蔵くん、遊んでいってよ!」
「うん!」
お店は、午前の部と午後の部で分かれる。
僕のお店は午後の部なので、午前中は遊びまわれるのだ。
「ストラーイク!」
むむ。
オッくんが投げる球(新聞紙で作られている)は、まっすぐではなく、ふわりと飛んでくる。
打つのは難しく、バットにかすりもしない。
(やはり、イチローのようにはいかないな・・・・・・)
バッティングを後にした僕は、イイケンのところに向かう。
イイケンのお店は、「さかなつり」だった。
「魚の裏に点数が書いてあるからな。それを足し算していって」
イイケンがお客さんに説明している。
店の看板には、「つり 3分 200円」と書いてある。
イイケンには悪いが、僕はスルーした。
お金を使うお店は、もう決めてある。
今日のおまつりは、体育館を貸し切って2年生全体でおこなわれている。
ふと顔を見上げると、今日も天井にボールがはさまっていた。
(いったい、誰がはさんだんだろうなぁ)
あのボールは、永遠に落ちてこないのだろうか?
まぁいい。
となりのクラスのお店も覗くとしよう。
(あっ、ゴメスじゃん)
保育園から一緒のゴメスは別のクラスになってしまったが、ちょくちょく遊んでいる。
どんなお店を用意したのだろう?
『おばけやしき 500円』
段ボールで作られたお化け屋敷はおもしろそうだが、500円は高い・・・・・・。
「誰も来ないゾ」
「き、きっとこれから行列ができるさ」
「同情スルなら、金をクレ」
逃げるようにゴメスのところを立ち去ると、やたら人が集まっている場所を見つけた。
僕も気になり、近づいてみる。
「あっ!いらっしゃいませぇ!」
優菜ちゃんだ。
看板には、“ぬいぐるみショップ”ときれいな文字で書いてある。
「もう売り切れちゃったの?」
実は、優菜ちゃんに「ぬいぐるみ、買いに来てね」と言われていた。
しかし、ダンボールで作られたお店には、何も残っていない。
しまった、最初に来るべきだった。
優菜ちゃんには、ストⅡの映画のときお世話になったから、お礼に買ってあげたかったのに・・・・・・。
「大丈夫だよ。他の人に買われないように、とってあるの。半蔵くんようの、特別なぬいぐるみだよ」
優菜ちゃんは、そう言って、お店の裏側に回った。
なに!?
僕用の特別なぬいぐるみ??
魔法陣グルグルのニケとか?
「はい、どうぞ」
僕の前にあらわれたのは・・・・・・
黄色い三角形に目がついた謎の物体だった。
「かわいいでしょ?ドンタコスのぬいぐるみだよ」
「そ、そうだね」
「♪ドンタコスったらドンタコスっ」
優菜ちゃんは、腕をフリフリしながら歌っていた・・・・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さぁ、もうすぐ午前の部は終わりだ。
午後から、僕の出番である。
僕が用意したのは・・・・・・
(つづく)