建築ビジュアル CG AI 活用法⑪ 動画生成AIが切り拓く未来のコンテンツ制作・リアル系動画生成AI ~Haiper+Runway Gen-2/Gen-3 Alpha+Sora~
こんにちは。STUDIO55技術統括の入江です。
前回に続き、今回は現在トレンドとなっている リアル系動画生成AI について紹介します。
※前回の動画生成AIの内容に関してはこちらです。
動画生成AIに期待されることは多岐にわたりますが、効率化とコスト削減を始め、新たなビジネスチャンスを生み出す市場の創出が挙げられるでしょう。
動画生成AIが世に出始めた頃は、AI独自の表現によるアーティストのユースケースが注目されてきましたが、現在は「Sora」に準拠したリアルさの追求が進んでおり、現実と見分けがつかないほどのリアリズムを持つAI動画が新たな利用用途を切り拓いています。
OpenAIの「Sora」がハリウッド進出を試みていると噂されるように、収益性の高い媒体への進出は他のリアル系動画生成AIにも見られる傾向です。
今年は特に、映画業界において大きな転換点が訪れ、業界全体を見渡す上で無視できない重要な潮流が形成されました。
リアル系動画生成AIの現状を把握することは、ビジュアル制作に携わる者にとって必要不可欠なものとなっています。
今回は、ビデオ生成AI業界を牽引している2つの代表的プラットフォーム「Haiper」と「Runway」をご紹介します。
さらに、前回触れた「Sora」に関する最新情報もお届けする中で、このリアル系動画生成AIの進展が、実際の映画業界へどのような影響を与えているかについてもお伝えします。
ぜひ最後までお読みください。
🔶Haiper
Soraに匹敵するとされる動画生成AIの一つが、「Haiper」です。
Haiper は、イギリスのロンドンに拠点を置く Haiper Limited 社が提供する動画生成AIで、映画のようにアーティスティックでリアルなクオリティを実現しています。また、直感的でシンプルな操作性により、使いやすさでも高い評価を得ています。
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操作はいたって簡単です。
上部メニューから項目を選び、そこからテキストか画像を使って生成します。
無料版は1日あたり10作品まで生成可能です。
仕事でなければ、一日に大量に使用することはないかと思いますので、Haiperはとてもありがたい存在です。
テスト動画 参考
「大阪の道頓堀…」といった簡単なテキストプロンプトだけで大阪を舞台にした動画を作りました。かかった時間も30分にも満たない程度です。
このぐらいのものが短時間で簡単に作れるといった参考にご覧ください。
Haiperによる短編映画制作
Haiperは映画業界への直接的なアプローチを明確に発表はしていませんが、複雑な視覚要素を理解して複製する同社のAIの能力は、将来の映画制作で重要な役割を果たす可能性があることを示唆しています。
Haiperは、データ処理とモデルトレーニング インフラストラクチャの拡張を含む機能の構築に重点を置いています。これは、汎用人工知能 (AGI) の実現に不可欠なステップです。このようなことから、視覚的に魅力的な AI 生成コンテンツの制作を目指す映画制作者にとって、Haiper は不可欠なツールになる可能性があります。
Haiper の スポットライト には数多くの短編映画やCM関係などのテスト的な映像がアップロードされています。
中でも『AFTER US』は、完全にAIで作られた短編SF映画で、Haiperユーザーの yan anim が制作して話題になりました。
Definitive version (決定版) は、こちらです。
HaiperはAI技術の強化とクリエイターの支援コミュニティの育成に戦略的に重点を置いており、それによって現時点においても無料での使用提供を続けています。
NVIDIAとのパートナーシップ
8月29日、Haiper はNVIDIAの技術支援を受け、独自の知覚基盤モデルの研究開発を進めることを発表しました。
NVIDIAテクノロジー を活用したビデオ生成AI機能の拡張により、長時間にわたる高品質なビデオ生成が可能になります。また、これらのモデルは「COMPUTEX TAIPEI 2024」で発表された NVIDIA Blackwell GPU で展開されるとあり、制作スピードの大幅な向上が期待されます。
Haiper は現時点でも高品質な動画生成が可能なプラットフォームですが、長時間の高品質ビデオを高速で生成できる能力が加わることで、AIのパフォーマンスが飛躍的に向上します。これにより、Haiper自身の進化だけでなく、業界全体の技術水準を押し上げることが期待されています。
先日、9月5日付けのXで、「300万人を超えるクリエイターが広く参加し、その数は増え続けている」との報告が共有されました。
このマイルストーンは、専門家と愛好家の間でHaiper人気が高まっていることを強調し、ビデオ生成AI業界におけるその存在感がさらに強固なものであることを示しています。
Haiperの今後の発展からますます目が離せません。
🔶Runway
Runwayは、アメリカのニューヨークとサンフランシスコにオフィスを構えるRunway ML社が提供するクリエイティブプロジェクト向けのAIツールです。社員は世界中からリモートで参加しています。
RunwayはこれまでにGen-1、Gen-2、Gen-3といった生成モデルをリリース。特に動画生成AI分野で圧倒的な技術力を誇り、業界のリーダーとして位置づけられています。
サイト画面の見方
Runwayにアクセスすると、全32ツールがずらりと画面に並んでおり、そのため、一見、項目が多くて分かりづらい印象があるかもしれません。
そこで、簡単に画面の見方からお伝えしておきます。
あくまでメイン機能は、画面左のサイドバーにある「TOOLS」の4つです。
すでにやり慣れた方であれば、ここから直接作業画面に切り替えることができようになっています。
「TOOLS」一番下の「All Tools」をクリックすると、画面上部にこのようなカテゴリタブが表示されます。
ここから、各タブにまとめられた内容で見ていくと、どのような機能があるのか、分かりやすいかも知れません。
🔹Video tools
『Video tools』カテゴリ項目は、16ツール あります。
メインとなる動画生成機能は、サイドバーにも表示のある、この2つです。
🔹Image tools
『Image tools』カテゴリ項目は、10ツール あります。
メインとなる画像生成機能は、サイドバーにも表示のある、この1つです。
🔹Audio tools
『Audio tools』カテゴリ項目は、6ツール あります。
メインとなる音声生成機能は、サイドバーにも表示のある、この1つです。
👉 音楽生成ではありません。ボイス生成の内容となります。
🔹3D tools
『3D tools』はカテゴリ項目は、2ツール です。
こちらの内容はサイドバーでの表示はありません。
👉 ビデオからOBJモデルデータを生成。プロンプトからテクスチャ生成の機能です。
ピックアップ紹介
すべてのツールを紹介するとなると、さすがに量が多すぎますので(苦笑)、以下の2点のツールをピックアップして紹介します。
① Video tools 『Frame Interpolation(フレーム補間)』
Frame Interpolarion (フレーム インターポレーション)は、画像と画像をつなぎ合わせて補完生成する機能になります。既存の画像と画像の間に新しい画像を生成して動画をより滑らかにする技術です。これにより、低フレームレートの動画でも動きがスムーズに見えるようになります。
以前のコラムで紹介した私の愛犬くんの写真をピクサー風にアレンジしたAI画像でフレーム補完(インターポレーション)すると、このような感じでモーフィング映像が作れたりします。
② Audio tools 『Lip Sync Video』
Lip Sync Video(リップ シンク ビデオ) は、音声やセリフに合わせてキャラクターの口の動きを生成する機能です。
実際にどのようなものかを見た方が早いかと思います。
※下のリンク画像をクリックして、生成した動画をご覧ください。
自前の写真で恐縮ですが、テンプレボイスの “Frank” に、以下の英語のセリフをしゃべってもらっています。じっさいに私が英語を話しているわけではありません(笑)
このように、用意した画像にセリフを話してもらうといった用途です。
アバターやその他の画像などを使い、伝えたいセリフをテキスト打ちで生成します。
🔸Gen-2
「Gen-2」は昨年(2023年) 4月にリリースされ、テキストから動画を生成する機能が大幅に強化されたモデルとして大きな注目を集めました。
その前身である「Gen-1」は2022年秋のリリースで、Runwayが初めて動画生成AIの領域に進出したモデルです。
Gen-1 は、既存の映像に対して異なるスタイルやアート効果を適用する機能が中心で、映像の元素材が必要でした。一方、Gen-2 では、元映像を必要とせず、テキストでゼロから動画を生成できる機能が追加され、AIによる動画生成の分野において大きな進化を遂げました。
Gen-1 が提供した映像変換技術が基盤となり、これをさらに発展させたのが Gen-2 です。
Gen-2 は、当時ランダムな結果が多かったAI生成に、より精度の高いコントロール機能を搭載したことで、ビデオ生成AI業界における新たな基準を打ち立て、業界をリードしてきたモデルです。
動画セッティング機能
Gen-2 には、優れた動画生成のセッティング機能が搭載されています。
どのような機能があるのかを簡潔に解説します。
【セッティング項目】
Prompt : テキストプロンプト、イメージ画像設定
General Settings : 解像度、シード値、ウェイト、ネガティブプロンプト設定
Camera Comtrol : 水平、垂直、パン、ズーム、ティルト、回転
Motion Brush : 特定のモーション設定。水平(x軸)、垂直(y軸)、近さ(z軸)、アンビエント(ノイズ)
Style(Cinematic) : 画のテイスト
Aspect Ratio(16:9) : 縦横比(16:9、9:16、1:1、4:3、3:4、21:9)
Custom Presets : プリセット保存
モーションブラシ
特に注目すべきは Motion Brush(モーションブラシ)です。
Runwayのモーションブラシは、映像の特定部分に直接動きを追加したり、編集を行う機能として高い評価を受けています。以前のコラムで紹介したPixVerse でも似たような機能を取り上げましたが、Gen-2 のモーションブラシは操作方法やアプローチが異なり、独自の使い勝手を提供しています。
Gen-2 では手書きで動かす方向を示すのではなく、セットされたディレクションパラメータ値でモーション設定を行います。
より直感的に方向を示したい場合には、PixVerse のモーションブラシが便利ですが、より厳密な設定として指定の被写体をモーションさせたい場合には、Gen-2 のブラシパラメータが効力を発揮します。
例えば、このような場合です。
こちらの画像を使って、ドアだけを動かすアニメーションを作ります。
モーションブラシを使ってドアを塗りつぶします。
被写体の塗りつぶしで、“Auto-detect area” をアクティブにすることで、範囲を自動検知した選択ができます。ただし、細かく選択する必要がある場合には、こちらをオフにして塗りつぶすのがよいでしょう。
【設定内容】
Proximity(z-axis) : -1.0 ※奥方向に向かって移動する設定
Horizontal(x-axis) : 1.0 ※左側に移動する設定
👉 ワンポイント アドバイス
画面が小さくて見えにくい場合は、画面右上の矢印マークのボタンをクリックしてください。
画面いっぱいに表示されますので見やすくなります。
ジェネレートされたアニメーションがこちらです。
カメラ設定のズームも加えていますが、このような設定はGen-2で行った方が、より要領良く生成できることがお分かりいただけるかと思います。
各動画生成AIの特徴から、利用用途に使い分ける判断ができてくると、具体性をもったAIの使い道が明確になってきます。
カメラコントロール
Gen-2 の優れたカメラコントロール機能についても解説をしておきます。
ジェネレーティブムービー画面の「カメラコントロール」タブをクリックすると、このようなインターフェース画面になります。
Horizontal : 水平方向の移動
Vertical : 垂直方向の移動
Pan : 左右にカメラを振る
Tilt : 上下にカメラを振る
Zoom : 寄り / 引き
Roll : 回転
これらのカメラの基本操作に加え、⑦ の項目があります。
画面を直接マウスドラッグして動かすことで、自動でパラメータ設定される便利機能です。
パラメータ設定では描きにくいカメラワークに対して、直感的な設定ができるようになります。
このような ”左斜め上方にカメラがせり上がりながらややズームするショット” も、画面の直接操作でより簡単に設定が行えます。
🔸Gen-3 Alpha
今年の6月17日、待望の『Gen-3 Alpha』がリリースされ、それを受けた一般リリースが 7月5日にありました。
『Gen-3 Alpha』はカメラワークや照明など、映像要素をすべて言葉(プロンプト)で指示するという、これまでの動画生成AIの概念を刷新する仕様となっています。
Gen-2 では詳細なカメラ設定が可能でしたが、Gen-3 Alpha ではすべてがプロンプトを通じて、インスピレーションに任せて生成するスタイルに変わりました。
まさに呪文です。
まるで魔法のようにイメージを映し出すその映像生成は、AIとは思えないほどのクオリティにまで達していると評判です。
デモにある ”日本の都市を超高速で移動する電車の窓に映る女性の微妙な反射” には、誰もが目を疑ったことでしょう。
これまでのAIは、反射面を正確に生成するのに苦労してきました。
学習するデータセットによる反射の例から適切な処理方法が学習できないためです。その結果、不正確さや非現実的な反射が生じていました。
その点から、かなりこのデモ動画が驚きの内容であることがお分かりいただけるかと思います。
Gen-3 Alpha でプロンプトをインスピレーションとして設定するには、視覚的な説明とカメラの説明に分けて記載します。
どのようなプロンプト構文がふさわしいか、一例を挙げておきます。
「Extend」機能
先月、Gen-3 Alpha は大幅なアップデートを受け、「Extend」機能を導入しました。この機能により、ユーザーは最初の 10 秒のビデオを超えてシームレスに生成を続け、最大 40 秒のビデオ シーケンスを作成できます。
この機能の追加により、ユーザーはより長く途切れのないビデオを作成できるようになり、視覚的なストーリーテリングの深みと連続性が向上します。
『Gen-3 Alpha』に関する詳細内容は、リリースページ、並びに「Gen-3 Alpha を使い始める」から確認ができます。
🔸Gen-3 Alpha Turbo
先月の8月15日、『Gen-3 Alpha』に Turboバージョン が追加されました。
これは、オリジナルの 『Gen-3 Alpha』 よりも 7 倍高速 のビデオ生成を実現しながら、コストを 50% に削減します。具体的には、オリジナルの Gen-3 Alpha では 10 クレジット/秒 だったビデオ生成が、5 クレジット/秒 に抑えられます。
スピードとコストの効率化が進んだ『Gen-3 Alpha Turbo』は、予算が限られているユーザーにとっても、コスト効率が高く、利用しやすいものになります。
また、『Gen-3 Alpha』は有料プランでのみの使用ですが、新しく加わった『Gen-3 Alpha Turbo』は、無料トライアルを含むすべてのサブスクリプションで利用ができるようになっています。そのため、より幅広いユーザーが利用しやすい展開を提供しています。
👉 Gen-3 Alpha Turbo では、現時点では「Extend」機能は使えません。
・料金体系
Runwayの無料プランは、一回限りの125クレジットになり、有効期限はありません。有料プランは、「標準」と「プロ」で、与えられるクレジットは以下になります。
※1クレジット=0.01米ドル
標準 : 625 クレジット / 月
プロ : 2250 クレジット / 月
また、その他に、「無制限プラン」というのもあります。
このプランでは、ワークスペースに最大10人のユーザーを追加できます。
🔶Runway Studio
前回のコラムで触れた OpenAI「Sora」のハリウッドへのアプローチに加え、Runway ML社もハリウッド映画に積極的な売り込みを行っています。
同社はエンターテインメント専門の部門「Runway Studios」を設け、映画や映像制作、コンテンツクリエーションに特化したプロフェッショナルなサービスを提供し、その取り組みを強化しています。
具体的には、「Runway Studios」は以下のような特徴があります。
プロフェッショナル向けツール: プロの映像クリエイターやアーティストが利用できる高度なツールや機能を提供し、AIを駆使した映像制作や編集を可能にします。
専用スタジオ: 映像制作の全プロセスをカバーする専用のワークスペースやスタジオが用意されており、チームでのコラボレーションや高精度な映像編集が行えます。
AIによるクリエイティブ支援: AIを活用した自動化機能や効率化ツールを利用でき、映像制作のプロセスをより直感的かつ迅速に進めることができます。
カスタマイズ可能なワークフロー: ユーザーのニーズに応じてワークフローをカスタマイズできるため、特定のプロジェクトや要求に合わせた柔軟な制作環境を構築することが可能です。
Runway Studios は、クリエイター向けのAIツールを提供するだけでなく、AIを活用した映像制作やメディアクリエイションの推進を目的として、イベントやプロジェクトをさまざまに展開しています。
🔸AIFF(AI Film Festival)
その1つが、 AI 映画祭『AIFF』の開催です。
AIFF(AI Film Festival)は Runway主催で2022年に設立され、2023年に第1回AI映画祭として、ニューヨークとサンフランシスコで開催されました。グランプリ受賞者には、賞金として15,000ドルと1,000,000 Runwayクレジットが授与されます。
この映画祭は、AIと映像制作の融合を推進する場として注目されています。
今年(2024年)の受賞作品は、こちらのページから視聴することができます。
AIに特化した映画際は世界的に初の試みであり、動画生成AIを使った映像制作の世界的な魅力が高まっていることから、参加を熱望する映画製作者の増加が示されています。
この傾向は、映画業界におけるAI主導のイノベーションの拡大と一致しており、今後も益々その需要の高まりが示されていくことになりそうです。
🔸Gen:48 (創世記:48)
『Gen:48』は、Runway主催の 短編映画コンテストです。
プレゼンティングパートナーは IMAX と Epidemic Sound です。
AI制作のスピード感と威力を示す、次世代感の強いコンペティションで、48時間(2日間)以内に、1~4分の動画を ”その場で制作” します。
チーム編成が1~3名というミニマムな構成条件で、完全リモートオンラインの ”ライブ開催” で、世界中のどこからでも参加可能です。
制作するにあたっての「テーマ」と「創作要件」は、コンペティション当日の開始時に公開されます。
最低限の人員で、最短の時間内にストーリーの発案から含めて映画を作るという、AIでなければ考えられない条件が前提のコンペです。
第3回目となる今年は、9月14日午前9時から9月16日午前9時(EST)までの開催となります。
審査方法は、Webサイトに掲載された一般投票によって決定する「ピープルズ チョイス賞」と、選出された審査員による「グランプリ賞」です。
それぞれに、5,000米ドル + 1,000,000 Runwayクレジット が贈られます。
チャレンジしたい方は、リンクから基本情報を入力の上、応募する形です。
ご興味のある方はチェックしてみてください。
🔸トライベッカ映画祭(Tribeca Festival)
トライベッカ映画祭(Tribeca Festival)は、ニューヨーク市のトライベッカ地区で毎年開催される映画とエンターテインメントの祭典です。
2002年にロバート・デ・ニーロと、プロデューサーのジェーン・ローゼンタール 等によって設立され、9/11テロ攻撃後のニューヨーク市の経済と文化を復活させるために始まったものです。
今では、インディペンデント映画制作者にとっての重要な発表の場となっており、映画業界のイベントとして世界的に知られています。
今年の『トライベッカ映画祭2024』は、映画製作の進化における重要な瞬間を迎えました。
OpenAIとRunwayなどの企業と協力したAI短編映画の上映が行われ、映画界における画期的な転換点となったのです。
👉 今年のトライベッカ映画祭2024は、6月5日から16日の期間で開催されました。
🔹OpenAI「Sora」スクリーンデビュー作品
今年のトライベッカ映画祭では、OpenAIのSoraモデルを使って制作された映画が上映されることになり、これまでにない注目を集めました。待望のSoraのスクリーンデビューとなりました。
Runway と共に、ついにトライベッカフェスティバルにOpenAI「Sora」が登場するとあって、前売りチケットは即完売。映像業界をはじめ、多くの関心が一気に高まりました。
OpenAI社に選ばれた5人の映画制作者は「Sora」の早期アクセス権を受け取り、わずか3週間で5本の短編映画「Sora Shorts」が作成され、AIを使った映画製作の潜在能力とスピードを示しました。
Soraで制作された『Sora Shots』は、現在ウェッブ上で視聴ができないため紹介はできませんが、代わりに、OpenAIのSoraを使って制作されたミュージックビデオを紹介します。
アーネスト・グリーン(Ernest Greene)こと「Washed Out(ウォッシュト・アウト) 」の名で活躍するアメリカのミュージシャンの新曲「The hardest Part」は、Sora を使用して制作された初のミュージックビデオです。
このAI動画は、映画制作者ポール トリロ氏によるもので、彼は先進的なクリエイターとしてSoraの初期段階からその能力を試す機会を得ており、Soraのいくつかの作品を作っているアーティストです。
ミュージックビデオでは、Washed Out(ウォッシュト・アウト) 音楽特有の Chillwave や Dream Pop 感を生かした映像を見事に作り出しており、80年代のアメリカンカルチャーを感じさせる音楽と映像は、最後までズームトランジションの連続で、 まさに ”めまい” がしそうです。(笑)
AIでなければ作れない独特の映像です。
👉 Dream Pop : 1980年代から発展したロックのサブジャンルの一つ。めまいを誘うような浮遊感のある音世界が特徴。ジョン・レノンの「Dream」等が有名。
👉 Chillwave : 「落ち着く、のんびりする」を意味する英語のスラング。
”チープな打ち込みをバックにノスタルジックなメロディーの乗せ、アンビエントの要素をブレンドした強烈なレイドバック感のあるシンセポップ” (引用.ウィキペディア)
🔹『De Niro Con』デ・ニーロ・コン
少し話しが逸れますが、今年のトライベッカ映画祭で注目を集めたもう1つの話題は、80歳を向かえる(1943年8月17日生まれ)ロバート・デ・ニーロを称えた没入型展示会「デ・ニーロ・コン」です。
映画好き情報として、2016年のトライベッカ映画祭で、名作『タクシードライバー』の40周年を記念して、出演キャストが集結したトークセッションの映像があります。
監督のマーティン・スコセッシ、主演ロバート・デ・ニーロ、 ジョディ・フォスター、シビル・シェパード、ハーベイ・カイテル、製作のマイケル・フィリップス、脚本のポール・シュレイダーが集結した映像はいつ見てもシビレますね。
ジョディ・フォスターの撮影エピソードはとても新鮮でした。
このトークセッションでは、デ・ニーロ演じるトラビスのモヒカンについての裏話等、約40分間にわたって貴重なエピソードが語られており、ファン必見の内容です。
その全貌は、『タクシードライバー』40周年アニバーサリ・エディション【初回限定生産】ブルーレイディスクの特典映像に収録されています。
・runway watch(Runway制作事例集)
お伝えしてきた、Runway主催の映画祭の受賞作品を始め、runway studios の実績、ミュージックビデオなど、他業界にわたるRunwayの実績が『runway watch』でまとめられています。
どのような優れた作品や実績があるのか、こちらからご覧ください。
🔷動画生成AI・課題と問題作品
ハリウッドのプロデューサー、ジェーン・ローゼンタール は、AIに関して、次のように語っています。
「AIに対する懸念は大きい。また、視覚的編集者などの新しい仕事の創出についても懸念されると思います」
昨年(2023年)の全米脚本家組合(WGA)のストライキ、全米映画俳優組合(SAG)、全米テレビラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)のストライキへと続いたニュースはまだ記憶に新しいところです。
AIが進化し続けるにつれて、業界はイノベーションと倫理的配慮のバランスを取り、AIの使用が人間のクリエイターの権利と貢献を損なうことなく映画制作を強化することを保証する必要があります。
これらの問題は依然として重要な論点であり、今後の交渉でさらに修正される可能性があります。
ドキュメンタリー映画「AIで人生を偽装する方法」
トライベッカ映画祭でスポットライトドキュメンタリーとしてワールドプレミアされた「How I Faked My Life with AI(AIで人生を偽装する方法)」は、その衝撃的なタイトルからも分かるように、今後の社会形成の重要なアンチテーゼとなる作品です。
現代を生きる若者が陥る可能性を示唆する内容は、今後のAIにおける倫理的な複雑さを検討する機会を提示してくれています。
脚本/監督の Kyle Vorbach(カイル・ヴォルバッハ) は、2022年に同タイトルのショートフィルムを公開しています。
こちらは YouTube で見ることができますので、リンクしておきます。
I fooled my friends and family with photorealistic images I created using StableDiffusion and then posted to all my social media. I go into how I made these photoreal pictures and also my descent into madness.
(直訳)
私は StableDiffusion を使ってフォトリアリスティックな画像を作成し、それをすべてのソーシャル メディアに投稿して、友人や家族をだましました。これらのフォトリアリスティックな画像を作成した方法と、私が狂気に陥った経緯について説明します。
NETFLIXオリジナルドラマ「ブラックミラー」
Netflixオリジナルドラマ「ブラック・ミラー」は、テクノロジーがもたらす恐怖を描き、大きな話題を呼びました。
特に、AIが完全に導入されたハリウッドの未来像を描いた シーズン6 のエピソード「ジョーンはひどい人」は、AIを駆使した動画配信サービスが現実では考えられないような混乱を引き起こす内容で、視聴者を予測不能なパラドックスへと導きます。
このシリーズは1話完結のオムニバス形式で展開され、シーズン3のエピソードは第69回エミー賞で脚本賞を受賞しています。
"すべてのクリエイターにとって戦慄のシナリオが描かれている" と紹介されている話題のシリーズです。
ネタバレになるので詳しくお伝えはできませんが、今後の未来を予感する上で、ぜひとも視聴をオススメしたい作品の1つです。
シーズン6「ジョーンはひどい人」のNETFLIX の予告編はこちらです。
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AI技術の進化は、多くの課題を抱えつつも、もはや押しとどめようもない潮流となっています。昨年の全米で起こったストライキなどの議論を背景に、トライベッカ映画祭はOpenAIやRunwayなどのAI企業と積極的に協力し、これらの懸念に対応しようとしました。対話を重視しながら、AIを使った実験的な取り組みを通じて、映画祭は創造的芸術におけるAIの役割を模索しています。
トライベッカによるAI企業との協力や新たなストーリーテリング技術の探求は、業界全体に広がる兆しを見せています。
さらに、AIの影響は映画制作にとどまらず、没入型のビジュアルや音響体験、インタラクティブな展示、仮想現実など、さまざまなエンターテインメント分野を革新する可能性を秘めています。
今後、AI導入による競争はさらに激化し、業界に大きな変革をもたらしていくでしょう。