夢を見させてくれている 【原田マハ著 楽園のカンヴァス 読了感想】
美術ミステリー。
だけど人が死ぬとか、殺されるということは無く、ルソーの絵画に魅入られた男女の研究者が、とある絵画の真贋判定を行う話。
物語は早川織絵の話から始まる。現在の仕事は美術館の監視員。そんな一介の監視員に、ニューヨーク近代美術館(以下、MoMAと記載)のチーフキュレーターからお声がかかる。
そしてもう1人の主人公、ティム・ブラウン。
織絵に声をかけた、MoMAのチーフキュレーターである(めちゃくちゃお偉いさん)。
第2章から、約20年前のティム視点の話が展開される。当時のティムはまだチーフではないキュレーター。彼は元々ルソーの絵画に魅入られ、研究をしていた。
そして、実は織絵も、元々ルソーの研究者で有名だった過去がある。
スイスのバイラーという男から、MoMAに展示されているルソーの「夢」に酷似した絵画の真贋判定に呼ばれ、2人は出会う。そして真贋判定の後勝った方に、この絵画を譲るというのである。
絵画以外にヒントになるものは、あらすじにある謎の古書。タイトルは「夢をみた」。内容はルソーの物語であった。
ミステリー小説は久方読んでなかった私だが、この本はやれ殺人事件だの物騒なことが起こらない。1枚の謎の絵画と作者不明の古書から、絵画の真贋を探る、といったミステリーで、事件もののミステリーが苦手な私には非常に良い。
アンリ・ルソーとは当時新しい表現を求めて、前衛芸術を引っ張ったひとりである。ピカソと同じ時代を生き、交流もあった。しかし評価される前に亡くなっている。表紙の絵画を見れば分かるが、決してパースの合っている絵では無い。しかし独特の表現と圧倒的な森林の描き込み、エキゾチックで心地よい森の湿気を帯びたような描写には目を見張るものがある。
作中出てくる謎の古書はルソーの物語が描かれていると言ったが、正確にはルソーが画家として活動し始めた所からの話となる(割と歳食ってから画家になったようだ)。途中から「夢」のモデルとなったヤドヴィカという女性視点での話に緩やかに移っていく。
この謎の古書、一体誰が書いたのだろうか。
2人の研究者は、この古書をバイラー邸にて毎日1章ずつ読み進めていく。全7章。1週間後に真贋判定の対決となる。
そしてこの2人も徐々に心を通わせていくのである。特に、織絵の凛とした姿が魅力的だと思った。徐々に魅力を感じていくティムの気持ちがとても分かる。
著者の原田マハさんはMoMAに勤務されていた経歴があり、実際の史実に基づいて物語を描かれる。古書の内容は登場人物の心理描写を豊かに描いているが、ストーリーの流れはノンフィクションをベースにされているということ。これが本当に面白い。実際にこうだったのかも、と思いながら読むことが出来る。
それはまるで、夢を見させてくれているよう。
この本は中盤以降に面白さが加速するのだが、そこら辺はあまり言わない方が良いだろう。
何故バイラーは真贋判定を依頼したのか、織絵の抱えている秘密、裏で蠢く美術界隈。
ピカソとルソーの友情、ヤドヴィカが絵のモデルになる過程。古書の作者は誰なのか。
最後全てが分かり、きちんとスッキリできる美術ミステリー。分かり易く非常に良作であった。
おむ
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