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本屋が気づかせてくれること

この世界には、たくさんの人が生きていて、それぞれが違う価値観を持っている。
さまざまなコミュニティがあって、生きる場所によって、何が大切かも変わる。
そう思うと、自分が暮らしている世界はびっくりするほど狭いし、その中で抱えている悩みなんてちっぽけなことだ。
ただ、理屈としては理解できていたとしても、そう割り切れないのが人間だ。
できるだけ意識しないと、視野はどんどん狭くなっていく。


この前の土曜日、地元の友人と久しぶりに会った。
温泉に行ってから、生まれ育った街の居酒屋でダラダラと話をした。
話題は、自分たちの近況報告と、地元のアイツが今どこで何をしているか、みたいな話がもっぱらだ。

話しながらも実感したのは、当たり前だけどそれぞれの人生が、それぞれの進み方をしているということだ。
たとえば、30も過ぎると年収面に差がついてくるし、プライベートの状況も子どもが生まれたり離婚したり、揉めて訴訟を起こしたり、違う話を聞くことが増えた。

ずっと横並びで生きているような感覚だった同級生が、それぞれの道を歩んでいる。
そして、自分が持っているものを相手が持っていたり、逆も然りだったりする。

そして帰り道、なんとなく「どちらの生活が上かな?」みたいなことを自然と考えてしまっている自分を自覚して、少し嫌な気持ちになった。


翌日は、横浜で「本は港」 https://honmina.com というイベントがあって、朝から足を運ぶことにした。
神奈川県内のいくつかの書店が集まるイベント。

会場に向かう電車の中、僕は前日のことを少し引き摺っていた。
次から次へと、同級生が父になっていること。
自分より遥かに稼いでいる同級生がいるということ。
自分の価値観を大切にして、周りに流されずに生きている同級生がいること。
そんな中で、いまだに他人との比較の中で幸せを測ろうといる自分がいるということ。

このままだと、歳を重ねれば重ねるほど辛くなっていくかもなあ、と頭の片隅でぼんやり考えながら会場付近にできていた列に並び、スタッフさんの声掛けで会場に足を踏み入れた。



会場の中は、人でパンパンですごい熱気だった。

出店している本屋が陳列している、本のラインナップやポップ。
来場したお客さんが、店主とあちらこちらで話し込んでいる。

その様子を眺めつつ、自分も本を見ていると、さっきまで頭の片隅にあった気持ちはどっかに行ってしまっていた。

出店している本屋は、いわゆる独立系の本屋だ。大型書店とは一味違う本、Amazonでも辿り着けないような本もたくさんあって、それぞれのポリシーを大切にした本を並べている。
それぞれのラインナップに特徴があって、とても面白い。

そうやって並べられた本を、必要とする人が集まる。
本屋の人も、会場に来ているお客さんも、みんな自分が良いと思っているものを選ぶ。
自分が良いと思うものを抱えて、生活を生きていく。
本屋の数だけ、本の数だけ、人の数だけ、世界があるのだ。


小さい頃から社会に出るまでずっと東京で育って、働いてからも東京にいる時間が長い。
付き合いが続いている同級生は、ほとんどが大学を卒業すると同時に就職するような友だちばかりだから、「東京のビジネスマンとしての成功イメージ」「東京で暮らす人の成功イメージ」のぼんやりとした共通認識を持っている。
そして、それに少しでも近づこうと努力している。
それが悪いとかそういう話ではない。
ただ、その価値観の中だけで生きていると、結局自分を見失ってしまうと思うのだ。


本屋という場所には、いろんな人の頭の中がたくさん転がっている。
そしてそれを覗いてみると、いろんな価値観に触れられる。
共感することも、勇気づけられることもあるし、たくさんの喜怒哀楽がある。
中身を読まなくても、表紙や帯、本屋の人が手書きで添えたポップを眺めるだけで伝わってくる。

イベントのとき、僕は 本屋 象の旅 https://zounotabi.com のブースで「歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術」という北欧の作家の本を、道草書店のブースでが?全国各地のローカルな活動を紹介する真鶴出版の雑誌「日常」を買った。
資本主義のシステムで息苦しくなっていた自分を解放してくれるような思考だったり、生き方だったりを教えてくれるような内容で、思わず手に取った。
毎日、寝る前に少しずつ読み進めている。

だから日々の生活で煮詰まった人が周りにいたら、僕は「本屋に行ってみたら?」と言いたい。

世界は一つじゃない。
本屋はそのことに気づかせてくれる場所だ。


ばらばら / 星野源

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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