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欲しいのは評価じゃなくてヒット作

SNSをスクロールしているときに、たまたま目にしたネットの連載記事のタイトルに入っていた名前を見て、なんだか既視感があった。
その記事はテレビ局の女性ディレクターが書いているエッセイで、顔写真を見ても「なんかどこかで見たことが、、」としばらく考えていると、記憶がつながった。

高校の同級生だった。
クラスも全く違って接点は全くないし、名前が特徴的だったのでなんとなく覚えていただけで、向こうは僕のことを知ってもいないと思う。

彼女が書く文章は、どれも読みやすくて面白かった。
ADとしての下積み時代の話だったり、プライベートを横に置いて仕事に全振りするような生活だったり、懐かしいような共感できるような話がたくさんあった。
自分も今では超ホワイトな働き方の会社に辿り着けたけれど、新卒で勤めていたマスコミや昨年まで在籍していた制作会社では月に何回かは徹夜するような生活だったし、休みの日もなんだかんだ仕事のパソコンを開いたり、開いてなくても頭の中で企画を考えたりしていた。
全く接点のなかった同級生だけれど、同じような20代を過ごしていたのかと思うと、親近感が湧いた。
(僕の場合は、彼女ほど世間から認められるような代表作を持ってないので親近感と言うにはかなりおこがましいけれど)

エッセイを読んだあと、彼女が作った番組をYou Tubeで見た。
すごく面白かったし、積み上げてきたんだろうなあ、と思った。
時には挫けそうになっただろうし、一喜一憂するような日々に、なんとか喰らい付いたんだろうなあと、目に見えない部分が見えた気がした。


現場で上から納得のいかないことを言われて、それでも言い返す力がなくて頷くしかなくて。
下からも突き上げられて、板挟みになって、面倒臭くなって自分で巻き取って。
必死に作業して、職場の時計を見ると、日付が変わっていて。
終電を逃してタクシーを捕まえて、家の近くのコンビニで缶ビールと弁当を買って。
温めるのも面倒だから弁当を冷めたまま食べて、ビールで流し込んで、でも頭の中ではまだ仕事のことを考えていて。
夜中も飛び交っているメールに返信をして、シャワーを浴びながら「この日々の先に何があるんだろう」とか思って。
「明日は仕事いきたくないなあ」と思いながらベットに入って。
目覚めたらまた、職場に向かう。

彼女のいまの仕事は、そんな日々の積み重ねが、生み出したものなのだろう。
僕のいまの仕事も、そんな日々の積み重ねが、生み出したものだなあと、思っている。

あの頃、コンビニ飯を食いながら「なんでもっと評価してもらえないんだろう」と思っていた。
上の人より働いているし、上の人が若い頃より自分の方が優秀なんじゃないか、とか思っていた。
すごく、評価されたかった。
優秀だね、と言われると嬉しかったし、言われるために振る舞った。

ただ、歳とともに「評価されたい」が薄まった。
評価ほど曖昧で、主観でしかないものはないなあと思うし、評価と実態が伴っていない人間も腐るほど見てきた。
自分も不相応な評価をされると気持ち悪かった。

彼女のエッセイや番組を見て、いま僕が欲しいものは、評価じゃなくて、ヒット作だなあ、と思った。
誰かに認められるためではなくて、誰かの心を動かすための仕事がしたい。

今までも僕はヒット作が欲しいと思っていたけれど、それは自分が認められるためのヒット作だった。
ただただ、ヒット作が作りたい。
ヒットする範囲は1人でも良いし、ヒットさせるものも何でも良い。
何本外したって良いから、頭のネジを一本外して、打席に立ち続けよう。

ばかまじめ / Creepy Nuts,Ayase,幾田りら


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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