新宿5丁目で第二の故郷を感じる
地元が東京だと告げると、東京以外の出身の人からは「いいな」とうらやましがられることが多い。「都会だね」とか「楽しいことが多そう」といったことから、「出身は東京っていいたい」とか「田舎は何もないから」といったことまでさまざまだ。
ただ、私は褒めてくれる人たちと同じような気持ちにはあまりなれず、「東京以外の出身って言いたかった」と思ってしまうことが多い。
だって、田んぼで鳴くかえるの声、木々の青々しさ、何も邪魔するものがない広い空、一面が真っ赤に染まる夕暮れとかは、東京にはない。それらに触れることを、東京では絶対にかなえることができない。そうやって考えてしまうからだ。
そんな私なので、東京以外に住むことが大好きだ。北海道、茨城、愛知、大阪、兵庫。そして沖縄県。大学を休学してインターンシップのために住んだ石垣島は、これまでの人生で一番きれいな海がずっと近くにあったし、当たり前のように満天の星空が見えて、木々や花が生い茂っていた。
また、その環境の中で暮らす人々は、最初は排他的にも感じたが、徐々に仲間に入れてくれて、方言がうつってしまう私を笑ってくれた。
東京に帰ってきて暮らす中で、やはりここにはないものを考えてしまうことが多い。そんな時、新宿5丁目という少し街中から外れた居酒屋に寄ると、そこには石垣島の泡盛が置いてあった。
「あのー、この泡盛ください。石垣島に住んでいた時に大好きになって」
私が注文したときにぽろっと話すと、店主の目の色が変わった。
「僕、石垣島の出身なんですよ」
話していくと、私が住んでいた場所と同じ字の出身で、共通の知り合いまではいないものの、頭の中に浮かんだ風景が同じであることを確かめることができた。
「また来ますね!」
そのお店は料理もおいしく、私は仲の良い友達と行く大切なお店になった。
ここでもまた、東京出身以外をうらやましいと思う。こうして東京以外で生まれ育っていれば、たとえ互いによくわからない人とでも、生まれ育った場所のことで意気投合できたりするからだ。東京出身同士が集まっても、あまりこんな展開にはならず、「人が多いよね」「満員電車つらいよね」くらいの話しにしかならない。
後日、神戸出身の友達と話していると、その友達の実家と私が住んでいた場所が近いことが判明する。
「○○って駅のところなんだけど」
「○○やろ、わかるわかる」
そして友達に連れて行かれた店も、私が以前行ったことある店で、あまりの共通点に笑ったものだった。
そして思う。「あれ、私東京出身だけど、いろいろな地域に住んだから、その地元の人たちとも話が合っているのでは?」と。
東京出身ということを呪わず、東京出身ということは何にでも染まるキャンバスなんだくらいに考えておこうと思った。