高校入試研究③ 2019年度 開成高校 国語 大問1
はじめに
またまた久しぶりの投稿となってしまいました。夏期講習が目前に迫り、相変わらず忙しくも充実した日々を送っております。
今回は2019年度開成高校国語 大問1を解説します。言わずと知れた、開成高校の国語。設問は漢字を除いて字数制限のない記述が3問。文章も長くはなく、文章にじっくり向き合って深く思考してほしいという学校側からのメッセージのようにも感じられます。
開成高校の国語の基本情報に関しては、以前の記事をぜひご覧ください。
出典情報
出典は黒川伊保子『アンドロイドレディのキスは甘いのか』です。
開成としては珍しい随筆です。人工知能研究に初期から関わってきた筆者が、「人工知能は人間を超えるのか?」をテーマに綴ったエッセイです。人工知能関連の書籍は、題材の性質上どうしても「理系的」に書かれることが多いのですが、こちらはどちらかというと「文系的」。出典部分は「はじめに」の前半です。機会がありましたら是非ご一読ください。
設問解説
問一
漢字。どれも平易なので落とせないところ。「その漢字は知っているが、熟語になるとかけなくなる」というひとは、「漢字にも意味がある」ことを意識しましょう。
問二
傍線部1「人工知能がヒトの知性を超える日が来るのだろうか」とあるが、このような問いが生じるのはなぜか。説明せよ。
設問分析
理由説明です。「このような問いが生じるのはなぜか」という設問文から、その背景にあるものを説明します。
傍線部分析
傍線部は、
傍線部直前からこれは「人間」が抱いた疑問だとわかります。そのため、この問いを抱くきっかけとなった人間の思考・心情が傍線部の理由になりそうです。
また、「人工知能がヒトを超える」という表現から、人工知能の発達が人間にこのような問いを生じさせることの背景にあるとわかります。
方針
A このような問いを抱くきっかけになった人間の思考・心情の説明(=直接的な原因)
B Aが発生する原因・背景(=間接的な原因)
解答要素
A 本文冒頭の2行に、
とあり、ここから「コンピュータ(=人工知能)が人間を超える日が来るかもしれない」ことに「怯え」を抱いていることがわかります。ここは「恐れる」や「怖がる」でも許容範囲でしょう。
この「怯え」はどのようなものなのか。何に対してのものなのか。心情の内容・対象を明らかにしましょう。二重傍線部a「ジザイ」の直後にこうあります。
つまり、有能/無能という観点でみるならば、人間よりも人工知能の方が優れているのです。だから、「人間はいずれ自分たちの仕事や日々の営みが人工知能に代替されるのではないか」という「怯え」を抱くのです。
ということでAの要素は、
となります。
B ではどうしてAが生じるのでしょうか。二重傍線部a「ジザイ」を含む段落とその前の段落を読むと、人工知能がどのようなことができるようになったのかが説明されています。ここは具体例なので抽象化すると、
とまとめることができます。それを私たち人間は間近で見ていることが、Aに繋がるのです。
問三
傍線部2「痛みがない人工知能には、生み出せないことば」とはどのようなことばか。説明せよ。
設問分析
言い換えの問題。
傍線部分析
傍線部を含む一文は、
傍線部の直後に、
とあるため、「そのことば」は人間のことばであることがわかる。つまり、傍線部は「痛みがある人間だからこそ、生み出せることば」と解釈することができます。
そして、傍線部の直前に、
とある。「入力情報をはるかに超えた化学反応」は比喩であるが、入力した情報に対して正しく情報を出力する人工知能との対比になっている。人間は入力に対して、正しく出力する(=ことばにする)ことでは、人工知能には到底敵わないが、一方で入力した情報からは想像もできないような出力をすることもあるのです。
またこの傍線部は筆者の息子のことばにまつわるエピソードの終わりに位置するため、傍線部は筆者の息子のエピソードをまとめたものであるとわかります。
方針
A傍線部直前「大人たちがかけたことばが、彼の中で再構成されて熟成され、私の世界観を超えた答えとして帰ってきた。」を抽象化する。
B 傍線部「痛みがない人工知能」を「痛みがある人間」と反転し、その「痛みがある」とはどういうことかを説明する。
解答要素
A まず、「大人たち」は具体的なので抽象化しましょう。自分ではない周囲に存在する人々という意味で、「他者」や「他人」などとするとよいでしょう。
そして「彼」は筆者の息子を指す言葉ですが、「他者」と対になるように「自分」とします。また、「私」はここでは筆者、つまり「他者」の側にいます。
B 筆者の息子が筆者にかけたことばに関するエピソードに注目。傍線部の5つ前の段落に、
とあり、ここから筆者の息子=人間は「心の痛みがわかる」ということがわかる。
問四
傍線部3「王道の先頭にいない若者」とはどういう人間か。説明せよ。
設問分析
言い換え。「王道の先頭にいない」とはどういうことかを、筆者の息子の描写をもとに説明する。
傍線部分析
傍線部は本文の最後に位置しています。その直後を含めて、
となっています。ここから「王道の先頭にいない若者」はプラスの意味で使われているとわかります。
方針
A 「王道」の換言
B 「先頭にいない」とはどういうことか
C ここも筆者の息子のエピソードのまとめ部分なので、そのエピソードを抽象化
解答要素
A 「王道」は「世間で正しいとされるあり方」という意味。本文中では、偏差値や学歴、容姿や勤め先などがあげられている。具体例なので、当然そのままは使えない。抽象化すると、「他者が羨むような取り柄」などと説明できる。
B Aから考えると、「王道の先頭にいない」は「他者が羨むような取り柄を持っていない」となるが、傍線部分析で確認したようにプラスな意味で説明しなければならない。そこで、傍線部の直前を確認すると、
とある。さらに、傍線部の4つ前の段落に、
とある。ここから、「王道の先頭にいない」は「他者が羨むような取り柄を持っていないが、他社の評価を気にしない」と表現できる。
C Bで確認した傍線部の4つ前の段落の筆者の息子の描写から、「自分の思うままに生きている人間」とまとめることができる。
まとめ
具体例や体験が多い随筆では、具体的な内容を抽象化して記述する力が求められます。具体的な部分と抽象的な部分の共通点を抽出して言語化することを普段から心がけるとよいでしょう。
さすが開成。高校入試では別格です。文章に対して設問が少なく、深く思考させる面白い問題が多く、解くのも解説するのも楽しいです。
それではまた次回。
お読みいただきありがとうございました。