高校入試研究⑦ 2020年度 開成高校 国語 大問1
はじめに
2日連続の投稿になります。今回は高校入試研究シリーズ、扱う問題は2020年度開成高校の評論です。この年の小説(門井慶喜『銀河鉄道の父』)もとても良い問題なので、またの機会に解説します。
出典情報
出典はこちら。三谷尚澄『哲学しててもいいですか?: 文系学部不要論へのささやかな反論』です。世間的には社会的に直接役に立つわけではないと考えられている、哲学などの人文学。大学で人文学を学ぶことの意味を、大学教員の筆者なりの視点で論じている文章です。ひと昔前の自然科学ブームが過ぎ去り、最近は開成に限らず、哲学や倫理、社会学などの人文系のテーマの文章が出題されることが多いです。日頃から興味を持ったものを調べたり、本を読んだりする習慣をつけましょう。
設問解説
問一
漢字です。出題されるものは例年それほど難しいものではありません。日頃から漢字を使うこと、同音異義語や同訓異字などの紛らわしいものは、意味や例文を介した漢字学習を心がけましょう。漢字が苦手な生徒の特徴として、漢字を読みと形のみで覚えているということが挙げられます。
解答
a 葛藤 b 推奨 c 郊外 d 自虐 e 巧妙
問二
傍線部①「『現状の居心地のよさ』に立てこもることで『中間の優位』を正当化する」とあるが、どういうことか。説明せよ。
設問分析
言い換えの問題。言い換えの問題では傍線部を意味ごとに要素分割し、それぞれを説明することを意識しましょう。また、前提や因果関係など、必要に応じて不足情報を補うことも忘れずに。
傍線部分析
傍線部前後は、
直前に「こんなふうに」という指示語があることに注目します。直前の段落とのつながりを意識しましょう。また、直後の「あるいは」を踏まえると、傍線部と「例外者の切り捨てといわば背中あわせの仕方で自分たちなりの肯定の論理を構築する」が、言い換えの関係にあることがわかります。
方針
A 「現状の居心地のよさ」に立てこもる
B 「中間の優位」
C 正当化する
の3点を前段落を踏まえて説明する。
解答要素
A 「現状の居心地のよさ」に立てこもる
→前の段落に「いまの波風のない平和な暮らしに十分満足している」と一致します。「波風」は争いや揉め事という意味です。「波風のない」は「安全な」ぐらいの意味です。
B 「中間の優位」
→ここの換言は苦戦する人が多いのではないでしょうか。「中間」という言葉ですが、これは充足しすぎていたり(上位)ではない、あるいは不足している(下位)でもないという状態です。本文の言葉を使えば「ほどほど」「足ることを知る」ということでしょう。それが「優位」ということは、単純に「ほどほど」が優れているということでしょう。
C 正当化する
→傍線部直後の表現を借りるとすれば「肯定の論理を構築する」ということでしょう。また直前にもあるように「中間」にいる自分たちは、「不要な摩擦や混乱を回避することを知る賢明な」人間なのだ、とあるので、上位でも下位でもない「中間」の自分たちこそが優れているのだ、と肯定したいのです。
解答
問三
傍線部②「幸か不幸か、いまの日本で暮らすことは非常に快適だ」とあるが、筆者はどのような点を「不幸」だと考えているのか。説明せよ。
設問分析
内容説明。「いまの日本で暮らすこと」が「非常に快適」であることの否定的側面を説明します。読みながら各段落に何が書いてあるのかを整理しながら読む習慣をつけましょう。
傍線部分析
傍線部は、
「幸か不幸か」とあるので、この後で正の側面と負の側面が説明されるはずです。「非常に快適」なのに「不幸」とはどういうことでしょう。物事には「快適」になってしまったが故に失われるものもあります。傍線部を読んだ時点で、疑問に思った事柄はそのまま保持しつつ、その疑問の答えになりそうな箇所を探しながら読み進めましょう。
さて本文では傍線部を含む第4段落〜第7段落が「幸」の部分の説明になっており、それ以降で「不幸」な点の説明をしています。
方針
「いまの日本で暮らすこと」が「非常に快適」であることが「不幸」と言える点を説明します。「快適」になった結果、日本の生活から失われたものは何でしょう。
解答要素
① 第7段落に、このようにある。
「ほどほど」に慣れきってしまった現代の若者たちは、「ここではないどこかへ」つまり、これ以上自分たちの現状をどうにかしたいという向上心を失ってしまったのです。
② 第8段落には、
「快適な中間者の国」=「いまの日本」です。筆者は彼らの「自己肯定感」に対して、「引っかかりを感じずにはいられない」=マイナスな感情を抱いています。
③ 第11段落では、「悟り世代」の若者を、「足ることを知り、泥臭いごたごたに巻き込まれることなく人生を乗り切る知恵」を有していると述べています。これも①の「向上心を失った」という部分と共通しますね。
解答
問四
傍線部③「それを肯定的に評価するための理由を見出すことができない」とあるが、筆者がそのように感じるのは、「中間優越主義」がどのようなものだからか。説明せよ。
設問分析
「中間優越主義」の説明です。「それ」の指示内容の把握も忘れずに。また、「肯定的に評価するための理由を見出すことができない」につながるので、否定的な側面を説明します。
傍線部分析
傍線部を含む一文は次の通りです。
まず、「それ」が指し示すのは、直前の「尊大な中間優越主義とも呼ぶべき正当化の論理」です。「尊大」は自らを偉いと思い、人を見下す態度のことです。ある事柄を説明するときに、筆者がそれについてどのような評価を下しているかがわかる言葉は、解答を考える指針になります。
また、「正当化の論理」という言葉にも注目しましょう。ここまで文章を読んでくれば、悟り世代の若者たちは、「中間である自分たちを正当化する」ということがわかります。
傍線部直後に「こんな言い方ができるだろうか」と続くので、後ろを追いましょう。
方針
「中間優越主義」を、傍線部以降の説明を踏まえて説明する。
解答要素
① まず、傍線部の2段落あと、「こんな言い方ができるだろうか」続けて、
とあります。この部分は「尊大な」という筆者の評価と重なりますね。
② さらに、その次の段落では、
とあり、それを筆者は「きわめて狡猾な性格を有したもの」と言います。そして、その自尊心のあり方は、同時に「尊大な性格を有したものである」とも述べています。
③ ②で述べたような「尊大で狡猾な自尊心」の裏側には、「巧妙な偽装された臆病さ」が隠れていると最終段落にあります。さらに、それは、「中間でなくなることへの恐れ」でもあると言うのです。自分が例外者ななり、排除されないための武装が「尊大で狡猾な自尊心」なのです。「中間」でい続けるために、「例外者」を見下し、自分の地位を上昇させることが、「中間優越主義」なのです。
解答
終わりに
現代社会の問題点を論じる文章の出題が多い開成高校。周りに流され、向上心を捨て「中間」にとどまるのではなく、自分と、そして社会と向き合う人間になるために、日々どのように思考し、生きればよいか。そんなことを考えさせられます。入試問題を解きながら、社会について、自分について考えるきっかけを掴んでくれたらと思います。
長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。よければ別の記事も見ていってください。
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難関高校入試の国語から考える現代社会入門
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