私は何者か、55
お風呂で顔を洗っていた。白い石鹸ブクブク泡立てて、ゴシゴシ顔を洗う。洗っている途中で、涙が溢れてくるではないか。どんどん涙が溢れてきて、もう、これは、泣いてるってことになるではないのか。と。
忘れたころに、ときどき、こんなふうに寂静に襲われるような気がする。
細かい雨が降り続く。
寒いのか、温かいのかよくわからない。
なのに、枯れたような枝から、いきなり花が開く。
花散れば諦めもつく。
暖房のスイッチに触れない日もある。
上着を一枚脱ぐ。
窓辺が喜んでいる。
光が美しく集う。
桜しべでそこらじゅう赤く染まる。
そんな、ぽっかり、ぜーんぶ忘れていたころ。
ひとりのお湯に、声を堪えて、泣く。しまいこんでいたものたちの微塵が涙とともに現れる。
やり過ごせたと思っていたものたちが、現れ、やがて、消えてゆく。
じっと、待つ。
じっと。
私は何者か。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?