歳時記を旅する30〔鉦叩〕前*服薬の刻ををしへて鉦叩
土生 重次
(昭和五十九年作、『扉』)
『枕草子』に蓑虫が鳴くとされている。
蓑虫は鬼が産んだ子で、親が子に粗末な着物を着せて「もうじき秋風が吹くだろうが、それまで待っておいで。」と言いおいて、逃げていく。それを知らない子が、秋風の音を聞いて秋になったのを知る。八月の頃になると「ちちよ、ちちよ。」と頼りなさそうに鳴くのが、たいそうかわいそうだ、という。
ところが、蓑虫は蛾の幼虫で、発声器を持たないので鳴かない。
「チン、チン、チン」と鳴くカネタタキと聞き誤ったのではないかというのが昆虫学者の説である。『日本国語大辞典』
カネタタキは、暑さの残る頃は夜に鳴き、涼しくなるにつれて昼間も鳴く。
句は、病んだ身体で、あるか無きかの命の声に耳を傾けながら過ごす、穏やかな時間の中にいる。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和四年九月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
☆カネタタキは、声はすれどもその姿はなかなかお目にかかれない。もりのまち◆みずのうた さんの記事では、写真を、それも雄雌一緒のものを記事にされていますので、ご紹介します。
(岡田 耕)
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