コオロギは「つづれさせ」と鳴くのか〈前編〉ー日本の俗言ー
【スキ御礼】「鑑賞*何のかの子は寝つかずにつづれさせ」
「つづれさせ」とはコオロギの聞きなしだといいます。
だけどどう聞いても「リリリリリ」ぐらいにしか聞こえないのです。
この理由を辿っていったら、中国の三国時代にまで遡るのではないかと思えてきました。
このプロセスを書いたら長くなってしまったので、3回に分けてお届けします。どうか最後までお付き合いのほどよろしくお願いします。
「つづれさせ」とはコオロギの別名である。
その由来については、辞典には、コオロギの異名というほかに、こう書いてある。
つづり‐させ【綴刺】
〘副〙 コオロギ(古くは、キリギリスといった)の鳴き声を表わす語。冬を迎える準備に、衣を「綴(つづ)り刺せ」といって鳴くという。つづれさせ。
ここでわからないのは、コオロギの鳴き声がどうして「綴れ刺せ」と聞こえるのかということ。
「つづれさせ」をコオロギの聞きなしだという文献もある。聞きなしとは、鳥や虫などの声を言葉に置き換えたもの。犬の鳴き声が「ワン、ワン」から、コジュケイが「チョットコイ、チョットコイ」という例がそれ。コオロギは、「リ、リ、リ、リ」と鳴いているように聞こえるが、どう聞いても「綴れ、刺せ」とは聞こえない。
由来の説明に引用されるのは、古今集の以下の和歌である。
秋風にほころびぬらし藤袴つづりさせてふきりぎりす鳴く 在原棟梁
〈現代語訳〉
秋風に吹かれて綻びてしまったようだ、藤袴は。「つづりさせ」と言ってこおろぎが鳴いている。
どうして「綴れ、刺せ」と鳴いているように聞こえるのかの説明が、コオロギの和名の「ツヅレサセコオロギ」の説明にあった。
ツヅレサセコオロギ
つづれさせこおろぎ / 綴刺蟋蟀
[学] Velarifictorus aspersus
(略)和名は、晩秋に生き残ってわびしく鳴くさまが、いかにも寒い冬の到来を警告しているようで、これを古人は「肩刺せ、裾(すそ)刺せ、綴(つづ)れ刺せ」と聞き、着物の手入れをするよう教えているとした俗言に由来する。
しかしこの俗言が歌の詠まれた当時にすでにあったものなのか、示された文献が見当たらない。
「リリリリリ」と「ツヅレサセ」との間には飛躍がありすぎる気がするし、その間を埋める何かきっかけがほしいのである。
〈中編に続きます。続きは10月25日投稿予定。〉
(岡田 耕)
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