歳時記を旅する56〔雪吊〕中*雪吊の藁の元結天に結ふ
佐野 聰
(平成八年作、『春日』)
高井有一の短編小説「雪吊り」に堀切菖蒲園の雪吊りが書かれている。
「雪吊りとは言つても、雪国とは違つて庭に風情を添へるための飾りである。背丈は三米に満たず、姿が美しいとは言へない松の傍らにその倍ほどの高さの柱を立て、天辺から垂らした三十本もの縄を、枝にではなく幹の下方に大きく円形に廻した竹の輪に結ぶのである。」(『海燕』昭和六十三年三月号)
東京都では、浜離宮など都立の九つの庭園の雪吊りは、兼六園とは違い、直接枝に縄を結ばず「ブチ」と呼ぶ裾に縄を結ぶ。
その方式は二つで、頭飾りがバレン(吊縄を編み込む)で裾に回すブチが棕櫚縄の方式と、頭飾りが藁ボッチ(吊縄を固定してその上に藁ボッチをかぶせる)でブチが割竹の方式がある。
小説の堀切菖蒲園は葛飾区の所管。そのブチは、都立の庭園なら後者の方式にあたる。
さて、句の天に結うほどの頭飾りは、三つの方式のうちどれだろうか。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和六年十一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
写真/岡田耕 (浜離宮恩賜庭園)