歳時記を旅する56〔雪吊〕前*雪吊の雪待つ一筋づつの張り
土生 重次
(昭和六十一年作、『扉』)
歌誌「新歌人」の主宰者の芦田高子は、兼六園の雪吊りを「雪吊りの縄が保てる緊張の美しさみな天に統べらる(歌集『兼六園』昭和四十三年)」と詠んだ。
兼六園の雪吊りのうち、唐崎の松(高さ九m、枝張り二十m、幹回り二・六m)の雪吊は、「りんご吊り」という方法で、五本の芯柱(最大高さ十六m)を立て、約八百本の荒縄で松の枝を吊る。一本の松に五本もの芯柱を立てるのは唐崎松だけである。頭飾りは、荒縄を「飾りいぼ結び」にして巻きつける。これは加賀藩の参勤交代の折に、大名行列の先頭を飾る槍の穂先の毛鞘に想を得たものという。
句は、張りつめた荒縄の緊張感が、来るべき冬の厳しさを予感させる。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和六年十一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
写真/岡田 耕(兼六園 唐崎の松)