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恐怖の正体とは?ウラ猫又
古典『徒然草』に「猫又」の話があるのですが、多くの「幽霊」や「妖怪」話は、人の思い込みや恐怖心が見せているのかなと思いました。
そのエピソードを現代風の物語にアレンジしました。一方から見れば怖い出来事も、本当のことが分かれば笑い話になります。
私は犬のクッキー。私のご主人さまは小学4年生のアキという女の子。今日も私は、遊びながらアキちゃんの帰りを待っている。
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ありがたいことに、私は放し飼いにされていて、家の外にも自由に出かけることができるんだ。ご近所さんからも撫でられたり、おやつをもらったりするよ。だからお出かけも大好き。
ピクっ。
あ!あの足音はアキちゃんだ!お迎えに行こう。今日もご褒美をくれて、たくさんヨシヨシしてもらえるぞ。えへへ。
タタタ。
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あの後ろ姿はやっぱりアキちゃんだ!わーい!アキちゃん、おかえり。いつものように飛びつきをしちゃう。アキちゃん、ヨシヨシして。
「きゃあ!猫又!?来ないで!」
あれ。振り払われた?猫?私、犬だけど。
アキちゃんは尻もちをついて、腕で顔を覆っている。どうしたんだろう。飛びついたのがいけなかったのかな。今度はゆっくり近づいてみよう。
「どうしたの、アキちゃん!」
「大丈夫かい!」
「不審者か!」
あ。近所の人たちだ。アキちゃんはみんなに囲まれてしまって近づけない。
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クンクン。
あれ?何だか良い匂いがする。どこからだろう。アキちゃんのことは気になるけど、この匂いに嗅ぎ覚えがあるから探してみよう。
**
あ〜。怖かったぁ。
近所の人たちが来てくれて良かった。家まであと5分くらいの道のりだけど、近所のおばさんが送り届けてくれることになった。
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男子のせいだ。学校の男子が隣町に猫又が出たとか、薄暗い夕方に現れて襲いかかってくるとか言うから意識しちゃった。今日は日直で少し遅くなって周りが暗かったから、本当に出たかと思った。あれは架空の生き物だって、近所の人たちも言ってたしな。どうかしてるよ、私。
**
家の前に着いた。
「お母さんももうすぐ帰って来る?おばちゃん、一緒に待ってあげようか?」
「大丈夫です。お兄ちゃんもクッキーもいるから。ありがとうございます。」
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家の門をくぐった時、アキは思い出した。そうだ、お小遣いでクッキーの好きなおやつ買ってたんだ。
アキはポケットに手を入れた。
うそ!ない!さっきこけた時に落としちゃったんだ。今日はもう暗いし、戻るのは怖いなぁ。明日、学校行く時に見てみよう。はぁ。もう、ついてない。
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玄関に入ると、クッキーがおすわりをしていた。
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「クッキー!!」
アキはいつものように、クッキーを抱きしめてヨシヨシをした。その時、アキはある事に気がついた。
「あれ?!なんでそれを?」
アキが買ってきたおやつの袋が床に置かれていた。
「もしかして…さっきのは、クッキーだったの?」
ワン!
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アキとクッキーの思い込みで起きた猫又疑惑。真相が分かったアキも、これで怖い思いをしなくて済みます。何も無くてよかった。
思い込みと言えば…私もちょっとした怖い体験があります。
カナダのスーパーで働いたことがあって、そこにはある怖い話が広がっていました。従業員トイレで自殺した人がいる。誰もいないのにすすり泣きの声を聞いた、扉の音が聞こえたとか。それを聞いた直後、私は尿意を催して従業員トイレに行ったんです。
なんでこんな時に。怖いから早くトイレを出たいな〜と思いながら、用を終えて手を洗っていると、個室から水を流す音が聞こえてきました。
私が入った時には誰もいなくて、今も個室の扉は全部開いている。「出たー!」と思って、手も拭かずにトイレを飛び出しました。
パニックで誰かに聞いてほしい。でも英語でスラスラとさっきの出来事を話すには、冷静にならないと難しい。
落ち着いてきた頃によく考えたら、カナダはどこのトイレでも自動で水が流れることがあるのです。従業員トイレでのあれは、自分の恐怖心のせいだったんだな。
いつの世も、人の心根、いとをかし。
※元ネタは、『徒然草』の「奥山に猫またといふもの」です。現代語訳かつ漫画で分かりすい記事を見つけました。興味がある方は読んでみて下さい。