"財務インパクト"をどこまで示せるか?ーー人的資本経営の最大の挑戦
人的資本経営は、経営の取り組みである以上、その成果を何らかの形で投資家に示す必要があります。
しかし、それらを財務諸表などの数字で表現することは極めて困難です。
では、どのような形で示すと良いのでしょうか?
人的投資の成果、どこまで財務的な数値で示せるか?
人的資本経営はどの程度効果があったのかを財務的な数値で示せることが理想です。すなわち、その活動や意思決定が財務状況に与える影響「財務インパクト」で示すことが望ましいということです。
企業が人的資本への投資を通じて、個々の資質や能力を最大限引き出すことができれば、組織全体として価値を生み出す力へと転換させることができるでしょう。そして、組織力が強化されれば、売上や利益などの向上といった、企業の財務状況にポジティブな影響をもたらすことが期待できると考えられます。
ただ、柳モデルでも示されている通り、人的資本への投資成果は実を結ぶまでに時間がかかります*1。こうした「遅延浸透効果」と呼ばれるこの現象は、人的資本経営の取り組みを財務的な数値で示す際に最も難しい側面の一つと言えます。
アプローチのひとつは、投資効果を相関関係で示すこと
では、現実的に、こうした性質を持つ人的資本への投資効果をどのように示すのが良いのでしょうか。
その成果を財務諸表などの数字で表現することは極めて困難ですが、相関関係を用いて示す余地はあると考えられます。こうしたアプローチを既に取っている会社の事例をもとに深めてみたいと思います。
SOMPOホールディングス株式会社
ひとつは、SOMPOホールディングス株式会社の取り組みです*2。同社では2022年、人的資本への投資や取り組みが財務価値や企業価値にどう繋がるかを可視化しました。
この検証の中で、どのような行動がどの要素にポジティブな影響を及ぼしているのかも相関係数で示しています。例えば、自身のパーパスの定めやそれに基づく対話や共有が、D&Iカルチャーを醸成することが実証されています。
富士通株式会社
富士通株式会社の取り組みも参考になるでしょう*3。2023年、同社では人的資本関連データと業績との相関関係を分析し、どのような取り組みが売上高や営業損益に影響を与えているのかを明らかにしました。例えば、ジョブポスティングやキャリア採用が業績に正の相関が見られたことが示されています。
ただ、二社のように詳細な分析を行い、その結果を公開することは現実的には難しいかもしれません。こうした取り組みには、膨大な時間とリソースを費やす必要があり、全ての企業が共通してここまでの分析を行うことは容易ではありません。
しかしながら、こうした事例を参考にしながら、投資対効果を検討することは可能です。大切なのは、自社の状況や目標に合わせて、可能な限り、自社らしい人的資本経営に取り組むことでしょう。
(参考情報)
*1 ダイヤモンドオンライン「「柳モデル」の重回帰分析:エーザイの事例」https://diamond.jp/articles/-/307873(2024年2月21日アクセス)
*2 SOMPOホールディングス「未実現財務価値の向上に向けて~人的資本のインパクトパスの可視化~」https://www2.sompo-hd.com/ir/data/disclosure/hd/online2022/future/(2024年2月21日アクセス)
*3 ZDNET「約2万人がポスティングに応募--富士通・CHROが語る、人的資本経営の軌跡と今後」https://japan.zdnet.com/article/35210209/(2024年2月21日アクセス)
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