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【目印を見つけるノート】130. 井伏鱒二さんに伺ってみたかったです
うーん、いろいろ書きたいことはあるのです。
高校のとき、夏休みの宿題の読書感想文に頻出する本がありました。
双璧は太宰治さんの『人間失格』、井伏鱒二さんの『黒い雨』でした。
太宰治さんはテッパンでした。今もそうかな。映画になりましたものね。井伏さんの本については高校の修学旅行、広島・萩・津和野でしたので、予習、おさらいのように選ぶ人が多かったのでしょう。
(ちなみに中学のときは筒井康隆さんの『七瀬ふたたび』が多かった気がします)
私は読書感想文というのはあまり好きではありませんでした。
定型文でうわべだけのことを書くのはイヤ、ということでしょうか。好きな本を選べるのに、軒並み似たような本が選ばれるのもどうなのかなと思いました。ですので、双璧からは選びませんでした。
でも感想文用に選ばなかったというだけで、読みました。
高2のときは、林京子さんの『ギヤマン ビードロ』で感想文を書きました。これは長崎の被爆経験について、自分と、自分に近い人のことを中心に時間の経過というヴェールをかけて綴ったものだったと記憶しています。
静かな記述の中に、確固としたメッセージがありました。
さて、修学旅行中、広島(宮島)の宿のテレビで『夜のヒットスタジオ』を見ていました。初来日中のU2が不機嫌に『New Years Day』を演奏していたのが印象的でした。The Edgeのギターの音が出なかったりして、さらにまずい空気が……キーボードの音は聞こえたよ~おーい💦
以降しばらく日本に来てくれなかったなあ。
それを感想文に書きたかったです。
⚫『黒い雨』のこと
高校時代に読書感想文で選ばなかった『黒い雨』について書きましょう。有名な小説ですので、あまり説明しなくてもいいのかと思いますけれど。
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4101034060/ref=tmm_pap_title_0?ie=UTF8&qid=1597111134&sr=8-1
75年前の8月6日、広島に原子爆弾が投下され、9日長崎に投下されました。歴史上はじめて、そして現時点で唯一、実戦で核兵器が使用されました。
「黒い雨」は広島の原爆で被爆した夫婦と、同居している姪のお話です。姪は原爆の直撃は受けなかったのですが、直接被爆したという噂になっていて縁談がまとまらない。そこで、「姪の身の潔白を示すため」におじは原爆投下当時の日記をあらためていきます。そこに淡々と、しかし克明に原爆投下で炎に包まれる、阿鼻叫喚の広島の姿が記されます。
ただ、原爆で直接被爆しなかったものの、放射能を含む『黒い雨』に濡れてしまった姪は、どんどん体調が悪くなっていきます……。
日記というツールを通して、それが淡々と克明に綴られています。
市井の人を通して見た、原爆の深い爪痕を描いています。
…………
この本は実際に被爆した方の日記をもとにして書かれています。そのことで今世紀に入ってから議論も起こったようです。そのまま書いただけではないか、というようなことですね。
井伏さんは1993年に亡くなっているので、何も言えません。
後の世代の、読書感想文に選ばなかった一読者として推し量れるのは、
井伏さんは、この歴史上例のない惨禍を書こうとずっと思っていただろうということです。市井の人々の命も、ささやかな暮らしも奪う。爆弾の熱線、熱風で直撃を受けた人々だけではないのです。
黒い雨に濡れただけで。
小説として書くにしても現実・事実の裏付けはどうしても必要になる。さまざまな人の証言をコラージュするのでは筋のある小説にならない。そして特定の方の日記が柱になる。事実の記録を大幅に書き換えることはできないーーということなのだろうと思います。
ジレンマがあっただろうと思います。
それでも書いたのは小説家の矜持というより、人間としての止むに止まれぬ思いだったでしょう。
実は私は井伏鱒二さんが好きです。
からりと情の深さ、人生の機敏を描くところに唸ってしまいます。『駅前旅館』など、いいですね、色気もあって。
編集の仕事をはじめたとき、井伏さんにエッセイを頼むのが夢でした。友人には、「あれほどの御大に書いてもらえるわけないでしょ!」と笑われましたが、釣りの話なら乗ってくれるかもしれないと、『釣りキチ三平』(漫画)を読みました。
でも、ほどなく、逝去されて、「間に合わなかった」と肩を落としました。
人には寿命があって、その時間には勝てません。
今、いわゆる「黒い雨」訴訟が国の控訴になるかどうか注目されていますが、
人の持てる時間は限られている、と思いながら見守っています。
https://mainichi.jp/articles/20200810/k00/00m/040/268000c
今日も長くなってしまいましたので、他のコーナーはお休みします。
75年前からのことを書くのは先週で一区切りしようと思ったのですけれど。ね。
それではまた、ごひいきに。
おがたさわ
(尾方佐羽)