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【目印を見つけるノート】678. 「あめゆじゅとてちてけんじゃ」とうつくしさ

きのうは小説の更新がずりずりと遅れてしまって、昼にやっとフィニッシュしました。面目ないです。
あぁ、145万字になっていたのですね。

予報通り、雪が降っています。仕事は一時間早くしまっていいということで、夕方になる前に電車に乗れました。ありがとうございます。

雪を見ていたら、もうね、「あめゆじゅとてちてけんじゃ」しか思い浮かばないのです。あめゆじゅは「雨雪」でみぞれのような雪ですね。
それをとってきてほしい、ということばです。

こういうときに宮澤賢治さんの作品の言葉が頭で繰り返されることはしばしばあります。もしかして、好きかも。元は学校で習ったのです。習った方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

学校で習ったものは文系課目ならばよく覚えているほうだと思います。それは私が頭がいいとかそのようなことでは決してありません。
(-д- 三 -д-)

音読して、ときにはノートに書いて、教科書を使う半年か1年、何度もパラパラ眺めたりします。普通に本を読むより、馴染む確率は高いようにも思います。私は授業を聞かずに教科書をひたすら読むひねくれものでした。『山月記』(中島敦)も5行目ぐらいまでなら諳じられます。

ろうせいのりちょうはてんぽうのまつねん~🎤

あ、脱線。
「あめゆじゅとてちてけんじゃ」があまりにも頭から離れないので、ここに引用しようと思いました。そして、思い付きですが、旧仮名遣いを今のことばにして、ひらがなを少し漢字にして、「 」を付けて出してみます。もしかしたら、旧仮名遣いはともかく、ひらがなが多いのは宮澤さんがあえてそうしたのだと思いますので、望ましいものではないでしょう。

それでも、今日のような水気の多い雪がそうしたいような気分にさせたのかもしれません。

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永訣の朝
宮澤賢治

きょうのうちに
遠くへ行ってしまう わたくしのいもうとよ
みぞれが降って おもては変に明るいのだ
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」
 
薄あかく いっそう陰惨な雲から
みぞれは びちょびちょ降ってくる
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」
 
青い蓴菜の模様のついた
これら二つの欠けた陶椀に
おまえが食べる雨雪を取ろうとして
わたくしは曲がった鉄砲玉のように
この 暗いみぞれのなかに飛びだした
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」
 
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああ とし子
死ぬという今ごろになって
わたくしを一生 明るくするために
こんな さっぱりした雪の一椀を
おまえはわたくしに頼んだのだ
ありがとう わたくしの健気ないもうとよ
わたくしも 真っすぐに進んでいくから
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」
 
激しい激しい 熱やあえぎの間から
おまえはわたくしに頼んだのだ
 
銀河や太陽、気圏などと呼ばれた世界の
空からおちた雪のさいごの一椀を……
……二きれの御影石材に
みぞれはさびしくたまっている
 
わたくしはその上に危なく立ち
雪と水との真っ白な二相系を保ち
透き通る冷たい雫に満ちた
この つややかな松の枝から
 
わたくしの 優しいいもうとの
さいごの食べ物をもらっていこう
わたしたちが 一緒に育ってきた間
見慣れた茶碗のこの藍の模様にも
もうきょう おまえはわかれてしまう
(Ora Orade Shitori egumo)
 
本当にきょう おまえはわかれてしまう
 
あぁ あの閉ざされた病室の
暗い屏風や蚊帳のなかに
やさしく青白く燃えている
わたくしの 健気ないもうとよ
 
この雪は どこを選ぼうにも
あんまりどこも真っ白なのだ
あんなおそろしい 乱れた空から
この うつくしい雪がきたのだ
 
「うまれでくるたてうまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる」
 
おまえが食べる この二椀の雪に
わたくしはいま 心から祈る
どうかこれが 兜率の天の食になって
おまえとみんなとに 聖い資糧をもたらすように
わたくしの すべての幸いをかけて願う

(旧かなを今の言葉に、ひらがなを部分的に漢字に、一部を「 」付きにしました)
原文は宮澤賢治さんのオリジナルを掲載されている、
https://kazahanamirai.com/miyazawakenji-eiketsunoasa.html
から引用しました。

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これは、慟哭と祈りの詩です。
そして、うつくしい詩です。

今日の雪は、宮澤さんがこの詩に書いたことがあった日と同じなように思いました。そう思うだけで、宮澤さんがこの詩を書いていた心、それが丸ごと染み込んでくるようです。
すると、見る景色は花巻になり、あめゆじゅをお椀に掬っている宮澤さんの様子が目に浮かびます。冷たい冷たい、しかしそれだけに透き通った空気に頬を刺されて。

詩の感じかたは人それぞれですし、その良し悪しを論ずるなどおこがましくてできません。
ただ、ある風景に出会って強烈に思い出すような詩があって、それが自分の経験にないことを書いていたとしても響いてくるのならば、それは本当に美しい詩なのだと私は思います。

私はうつくしいものが好きです。
そして、うつくしいものを
うつくしいと思えるようでいたいと思います。

今日の1曲はこちらです。
中島美嘉『雪の華』

それでは、お読みくださって、
ありがとうございます。

尾方佐羽

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