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【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ③
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僕らがまだ10歳だった頃のことを唐突に思い出した。
その年、彼は10歳の誕生日パーティに僕を招待してくれなかった。
前の年に初めて友達になり、その年は9歳の誕生日パーティに招待してくれたものだから、また招待してくれるも
【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ②
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暗闇に浮かんだ2つの光は、廊下灯に反応して少し平らになり、そして徐々に元のアーモンドの形に戻っていった。ドアが開かれ、深呼吸一回分くらいの間があった。
「よぉ」と彼は口に出した。それはビール瓶の口に息を吹きかけたときのよう
【断片小説】ア・ハーフ(12/24)・デイズ・ナイト ①
午後三時過ぎのこと、僕はベッドにうつ伏せで寝ていた。屈強なボクサーに強烈な左カウンターパンチを喰らってそのまま前に倒れたような格好だ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ・マクフライの特徴的な寝相と似ている。入居したころより備え付けられていた堅いベッドをいつまでもスマホのバイブ機能が揺らしていた。アラームをセットした覚えもないのにどういうことだろうと思いつつ、寝ぼけまなこでスマホをとった。
もっとみる【断片小説】カマキリ男のアンガーマネジメント
不忍改札あんまり褒められたような癖じゃないのは、自分でもよくわかっている。だけれど、皆誰しも経験自体はあるんじゃないかと思う。例えば、電車に乗っていて隣に好みの人が座ってきたとする。髪型から靴の磨き具合にかけて満遍なく観察をして、容姿の採点と、大まかな趣味嗜好・価値観の推測を行う。そして指輪をしていないことを確認したり、横目でスマホを覗いたりして、誰か特定の人物に対して愛するメッセージなんかを送信
もっとみる【断片小説】ラプソディー・インコ・ブルー
インターホンを押してしばらくした後に、玄関の扉は開いた。中から顔を覗かせたのは白髪交じりの男性だった。額は広く、豊かではあるがひどく軋んでいそうな髪の毛をオールバックにしていた。眉毛は太めに揃えられ、フチなし眼鏡の奥の、いささか大きすぎる瞳には光はなく、深い暗闇を宿していた。ひどく痩せていて、普段から日に当たっていないのか肌は青白かった。その姿は祐作にくたびれた猛禽類を連想させる。夏の日、アスフ
もっとみる【断片小説】Almost Nobody is here! 駆け抜けろ! ワイルドアットハート!
渋谷駅前、スクランブル交差点。人影もまばらなこの街でひっそりと蠢く二つの影がある。信号は点滅し、灰色のアスファルトを赤と緑に交互に照らしている。
二つの影は駅前の広場を駆け抜ける。今日もハチ公は凛とした顔で帰らない主人の帰りを待っている。
「…だけど兄ちゃん、街は自粛ムードで誰もいないってのにこれじゃフェアじゃないよ。僕らの仲間がこれを知ったらなんて言われるか」弟は眉間に皺をよせて兄に問うた。
「
【断片小説】フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
キッチンの上で、朽ち果てつつある古代の塔のように積み重なった、そのインスタントコーヒーのカスを見るにつけ、私はほとほと嫌になりつつあった。決まって一日に二つか三つずつ、そびえ立っていくインスタントコーヒーの塔を解体しごみ箱に捨てるのは、いまではすっかり私の朝の役目になっている。雨上がりの洗い立ての朝に(とはいってもすでに昼前だが)、彼の家に来てまずやることと言えばこれだ。おはよう、も言っていないの
もっとみる【断片小説】ベティ、マイク、それからキャシー
幾人もの東の寡黙な読書家から、幾人もの西の雄弁な研究者の手にまで渡り歩いてきた、数多の古書が、独特のにおいを路地に放っていた。町は古本市場で賑わっている。ここは日本の真ん中、東京都心から少しはずれ、神保町。
今日は良く晴れた日だ。空には雲一つなく、太陽は熱心に地球を暖めようと懸命に努力していた。溶けかけの板チョコのような気だるさが、黒々とした照り返しのアスファルトから漂っている。そして時折、針の
【断片小説】眠れない夜に数えるのがやぎで、大事なお手紙を食べてしまうのがひつじだ
とても嫌な予感がした。
気だるい身体をベッドからべりっと引きはがし、すぐにベランダへと向かわせた。立った瞬間身体がぐらりとする。血液がぐるぐる身体を駆け巡っている。そして脳みそは乾いていて水を求めていた。深く眠りすぎたのだ。うまく身体をコントロールできていない。ガラス戸を開けた瞬間、強烈な時化が襲ってきた。急いで洗濯物を取り込む。
とても酷い気分だった。宇崎の天気予想の通り雨は降った。それも