見出し画像

インハウスでコンテンツ制作する苦悩

お仕事の1つとしてコンテンツ制作に携わっている。何でも屋のように、宣材写真を撮ったり、記事を書いたりすることもある。作業時間で言えば動画制作が多いので、動画制作について書く。

内容は商品のプロモーションだったり、使い方の解説だったり。使いどころとしては、SNS用のショート動画だったり、YouTubeに掲載する動画だったり、店頭で流す動画だったり。

要求事項がとにかく多い。そのように書くと、「さぞかしクオリティが高いんだろうな」と思われるかもしれないが、そうではないという話をする。


テレビCMみたいなガチでクオリティを求める案件であれば、「餅は餅屋」で映像制作会社に依頼される。ある程度はクオリティに妥協して、フットワーク軽くこなしてほしい案件だけが内作として降ってくる。

クオリティに妥協している割に、要求は多い。その内容は、一般的に言われるクオリティとはズレている。内情をオブラートに包みながら、奮闘記として共有したい。


チェックする人が多過ぎる問題

けっこう老舗企業であるため保守的であると共に、世に出るまでにさまざまな立場の人がチェックするので、ご指摘を受ける観点もバリエーションに富んでいる。コンテンツを回覧してご指摘を受ける順番に挙げる。


その業界ならではの観点(事業部)

どの業界にも「業界ならでは」の観点がある。

旅を撮るならば旅に出ないと話にならないし、人を撮るならば人との関係性を築かなければならない。写真でも映像でも、撮る能力の半分くらいは被写体に関する理解だと思っている。それが求められるのは理解できる。

基本的には、撮影時点で被写体に精通している人が立ち会ってくれる。しかし、現場では誰も気付かずに、撮って編集した後で誰かが気付いて「NG」を受けることもある。つらたん。

自分の身を自分で守って余計な仕事を増やさないためにも、気を配って「それ大丈夫?」と声をかけねばならない。事例として以下を挙げる。

  • 調理中、パプリカの細切りで「くるん」とした部分まで切り落としたのは、お手本としてダサいからNG。

  • 出演者のネイル、指輪、アクセサリー、腕時計していて調理動画は、苦情くるかもしれないのでNG。

  • 製品の取説に書いていることを逸脱した使い方するとNG。例:コーティングされた鍋に金属のおたまを使ったら傷付くのでNG。

  • 「渡し箸」しているのはテーブルマナーに反するのでNG。

  • 古い機種で撮影していたら、「せっかくなら新しい機種で撮りなおして」もあった。

動画にはテロップもあり、社内で「にんじん」はひらがなと決められているのに、「人参」や「ニンジン」のように表記していたらNGとかもある。校閲とかクリエイティブ側の人がいちばん苦手な仕事やぞ。

ローカルルールも多くて、「これに精通したところで転用きかないスキルだなぁ」とは思いつつ、頭に入れて、表現の逸脱を違和感で検知して、調べながら作らねば仕事にならない。


ビジネスオーナーの視点(事業部)

よくご指摘としていただくのが「商品として推したいポイントが盛り込まれていない」「商品名を大きく書かないと、何の商品か分からないじゃないか」というもの。

ある意味では正しいけれど、場合によっては間違っているんじゃない?と私は考えている。例えば、ターゲットによる違いがある。

マーケティング界隈の購買行動モデルとしてAISASがある。もっと新しいフレームはどんどん出てきているとは思うが、ひとまず古典的なもので話を進める。
Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)

すでに「Interest(興味)」を持った以降の人であれば、商品名をすりこむのは重要だというご指摘は理解できる。
だけど、「Attention(注意)」前の段階にいる視聴者に、商品名を刷り込むと宣伝っぽくなり、SNSでは飛ばされて逆効果じゃね?と思う。

視聴者の困りごとに共感を集めて関心を引くコンテンツか、商品を詳しくは知ってもらうためのコンテンツか、アテンションを稼いで視聴者を増やすためのコンテンツなのかで適切な表現も異なる。

最後に挙げたのはDECAXの実践となる。そんな概念があると想像だにできない人もいて、「なんで売り上げにも繋がらないコンテンツ作るんだ?」と言っちゃうのが旧体質企業のエグさ。認識をアップデートするよう啓蒙しなければならない。

制作すること自体は決まっていても、着手時に要求仕様を詰めるのが忙しくて、制作後に後出しで言われることもある。ちゃんと認識合わせできたとしても担当者までで、確認段階に初めて観る偉い人が物申すこともある。

そこらへんの問題点は以前にも投稿していた。「指摘をあげることが仕事だと思っている」病とも相まって、本当に不毛な指摘はいっぱい来る。


ブランド部門の観点

主に景品法まわりや、「嘘、大袈裟、まぎらわしい」が無いかの観点でチェックしてくださる。最低限の要求事項として、満たさないといけないのは理解できる。

ホンマにそれ法的な要求事項なの?と思うものもある。例えば「病名を出したらNG」というルール。「夏バテに効く」と言うと、「夏バテ」は病名で、根拠がないのに効果効能を謳うのが法的にNGなのはわかる。

同様に「弊社の商品はコロナに効きます!」と根拠なく言ったら法的にアウトなのも理解できる。でも、「コロナ禍のおうち時間を活かして…」と言ってもNGをとられる。もはや言葉狩りでは?テレビでも言ってるのに?とは思う。


別の観点で、企業やブランドのロゴを正しく使っているかチェックもある。企業のロゴは神聖な存在なので、雑に扱うと怒られる。
例えば、周囲の余白ちゃんと取れていないとNGだったり。動画だとキーフレーム打って動かすのはNGだったり。

基本的に、私は「ややこしそうなので触れないでおこう」と思って避けようとするけれど、「ブランドを浸透させるように末尾にロゴを入れろ」と要求されたこともある。

ショート動画やリールに対してまでそれを求めるのは違うんじゃない?と交渉して断った。媒体による違いを考慮せずに、杓子定規で仕事しちゃう人は多い。


コラボ先企業の視点

他社とのコラボ企画がある場合、公開予定のコンテンツを他社に回覧して、問題がないかチェックしていただく。

すでに挙げた「ブランド視点」で、自社ブランドに対して注意していることを、他社ブランドにも配慮すれば、だいたいは通る。

相手先ならではのこだわりもあって、例えば、ある出版社では「書影」もロゴと同じくらい大事に扱わないといけなかった。動かしたり、被せたりするとNGとか。


広報の視点

企業や商品の情報が、世の中へと適切に伝わっているか?という観点でチェックをしていただく。ここまでくる間に、しょうもない誤記なんかは潰されているけれど、まだ出てくることがある。

商品には「正式名所」「愛称」「短縮版」があって、『一方の商品は「正式名所」なのに、他方は「愛称」で表記されていて統一感が無い』というご指摘をいただいた。細けぇ。


炎上リスクがないか?という観点。防災をテーマにしたコンテンツで「備えがあって助かった」と言う出演者が笑顔だったのが、「災害に苦しんでいる人の中には気を悪くする人もいるかもしれない」理由でNGを受けた。

それを言いだしたら、「高価格帯の商品を販売する企業活動は、貧困で苦しんでいる人が買えなくて反感を買う」恐れだってある。不用意に感情を逆なでしないように配慮は必要だけど、誰にも嫌われず生きることもできんやろとも思う。


デジタルマーケティングの視点

過去に炎上問題があってから、第三者機関的にデジタルマーケティングの部門のチェックを受けることになったらしい。

広報も炎上リスクみるけれど、ここでも観られる。デジタルコンテンツとして表現は妥当か?というような視点もある。

それから、デジタル活用が上手いことできているか?みたいいな観点のアドバイスもある。タイトルの先頭に言いたいこともってこいとか。読みやすい大きさになっているかとか。

ブランドチェックで「但し書きを入れろ」と言われた情報のボリュームが多くて小さい文字で入れると、デジタルマーケティングからは「但し書きが小さ過ぎるので読めない」という合わせ技のご指摘をいただくこともある。


足枷を付けて制作している

真にクリエイティブな仕事をしている人が読んだら(そんな人はここまで読まないと思うけど)、鼻で笑っちゃいそうな仕事をしている。

もちろん、会社に弊害をもたらすようなコンテンツ制作であってはならない。でも、ご指摘内容を修正したところで、どれだけの「良いコンテンツ」になるのか?修正時間に対する費用対効果はあるのか?は疑問を持ちながら仕事している。

「これ作ったらおもしろいんじゃないの」と思って始めたことも、いろんな観点のチェックを受けて、ご指摘を修正するうちに角も丸くなって、1/3も伝わらない。

だけど、そこで諦めて1/3すら0になっては、私が制作する意味がなくなる。バス停を1cmずつ自宅に近付けてくるようなイメージでじわじわ啓蒙しながら、情熱は燃やし続けないといけないのかなと思っている。

いいなと思ったら応援しよう!

odapeth
「文章でメシを食う」の道を開くため、サポートいただけると励みになります。それを元手にメシを食ってメシレポします。