私をつくった2021【書籍編】

今年購入した本をいくつかピックアップして2021年をきわめて私的に振り返っていく。

1.『デザイン大全 イメージをパッと形に変える』

デザインに関する参照本。言語で語られる「イメージ」(かっこいい、親しみやすい…)と構成される「デザイン」「クリエイティブ」(抑揚を押さえた感じ、まるっこいモチーフを使う…)をつなぐための、引き出しを増やそうと購入。掲載されている作例をラフとして模写したり、そのデザインに至るまでデザイナーが考えたことの解説を読んだりした。

この本を手に取った2021年初頭は、クライアントの要望(言葉ベース)をクリエイティブや企画(デザインベース)に具現化していく際に、まずまずの「正」答が出せるようになりたかった(「全然イメージと違う」なんてことがないように)。ただ、十人いれば十人分の、テイスト=クリエイティブの結びつき方の方程式があって、本当にばらばらだということは分かっていた。それでも、あるテイスト(例えば、清楚、シンプル、やさしい)には、ある程度適合度の高いデザイン(例えば、余白の多い、整然とレイアウトされた、輪郭線の弱い)があると信じたかった。

また、脳死ですぐ思いついてしまう「自分の好みのデザイン the 手癖」から自由になりたかったというのもある。そういう手癖に陥らず幅広い範囲から検討するために、自分の好みフィルターに引っ掛からずに(ネット検索やpinterestではレコメンドのフィルターが働いてしまう)、「いろいろなデザイン」を一覧でレファレンスする必要があると思った。

私は一度見たことがあるもののアレンジでしかまだクリエイティブが思いつかない段階であるため、単純に接触点を増やしたことで、効果はきっとあったと思う。

2.『BRUTUS 2021年 3/15号 なにしろラジオ好きなもので③』

春になろうとする頃、音声コンテンツ熱に犯されていた。私にとってラジオは、「平凡からの脱出ツール」かつ「カンフル剤」。生きていると、繰り返しばかりの家事をしなければならないが、どうにも気が進まないときがある(なにかに焦っているとき、自分の向上が追いついていないと感じるとき、家事なんかやってられるか!という気になってしまう。生活こそ自分を育てる土壌なのに)。魂が死んでいく間に、耳だけでも文化的に豊かになる気がして、いつも助けられている。

この本には、パーソナリティーや関係者などラジオ制作の裏側にいる人や、ファンとして聞く側の人々、いろいろな立場からラジオのことを想った内容が綴られている。言うなれば、愛。ラジオリスナーとしての帰属意識が刺激された一冊だった。ラジオファンと名乗りたくなった。

3.『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』

小学校の卒業文集に書いた夢は「小説家兼イラストレーター」。文章を書く人への憧れを捨てられない。有難いことに、それに近しいことを今職業としている。ただ、自分には全然「文章を書く技術」がないことに気づいた。取材内容から掲載する内容を大きく外すことはないが、段落の組み立て方や、意味の流れの整理や、強調すべきところがちぐはぐしてしまう。たぶん文章の背骨を捉え切れてない。些末な贅肉を切り落とせていない。その作業の重要性をあらためて認識した2021年だった。

この本は、ハウツー本ではなかった(意外だった)が、大事なエッセンスを摂取できたと感じた。ただ、生の取材内容を目の前にすると、些末だけどやたら熱量のこもった断片にばかり気がとられてしまうから、背骨を通そうとしてもひん曲がってしまうときがある。折々に読み返したい一冊だ。この仕事を続ける限り。

4.『躁鬱大学 気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません』

坂口恭平さんのことは、大学時代の社会学専攻の友人が『0円ハウス』をきっかけに教えてくれていたけど、これまで著書を手にしたことがなかった。前述のポッドキャスト「奇奇怪怪明解事典」で『自分の薬をつくる』が紹介されたのを機に、気になって、その頃の新刊を購入。双極性障害の診断はもらっていない私にも、かなり腑に落ちるところがあった。「自分が中心になれない飲み会はさっさと退場する」…などの”今日から使えるライフハック”的なことも、気持ちが落ちてきた時の考え方というかなり汎用的でベーシックなことも学べた。目から鱗もたくさんあった。今まで知らずに我慢してた小さな疼きに名前をもらって嬉しかった。ある環境や条件になると無条件にどうにもしんどくなってしまう自分を生きるのはしんどいけれど、その原因の一端や対処法の一片が分かると、「それもひとつの個性・性格ですよね」くらいには自己受容できるようになる。坂口さんと友達になって、すごく話を聞いてもらったような気がした。自分の制御方法を知るにあたって重要な一冊だった。

5.『他者の靴を履く アナ―キック・エンパシーのすすめ』

大学時代に、芸術と教育制度・政策の結節点について少し勉強していたことがあり、演劇をベースにした情操教育というイギリスの事例に関心があった。その演劇の縁で『何とかならない時代の幸福論』を読み、著者の縁で『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』を読んだ。この2冊でキーワードになっていた「エンパシー」についての著作がある…ということで満を持して読んだのがこちら。

エンパシ―とは、認知的共感のことで、ミラーニューロンの反応としての同調や、ただの情緒的な共感とは異なる知的な営みだと言う。「相手の立場になって考えなさい」と、それこそ小学生の頃からよく言われてきたが、このことについて細分化して考えたことがなかったため難解だった。

特に、この本の第10章 ”エンパシーを「闇落ち」させないために” は、目から鱗だった。かいつまむと、エンパシーを働かせすぎると、自我の強い他者の単なる「鏡」になってしまって自分を乗っ取られてしまう、だからエンパシーにはアナーキズム(あらゆる支配への拒否)の精神が必要ということだった。相手の立場に立って、背景などを理解して、それでも自分と違う意見だったら「自分とは違うな」と思ってもいいし、社会をよくするために必要なことを話し合う。そのために、自分のことをよく知ること、自分の意見を持つことが大事なのだということは、思いつきもしなかったので目から鱗だった。

実は、2021年の下半期の個人的なテーマは「メタ認知」だった。
この本とは別ルートで、職場の先輩の仕事論などを聞いて行きついたことだったが、思わぬ形でこのテーマの重要性を援護射撃され、「やっぱり、自分のことをメタ認知したら、自分の人生が思わぬ方向に開いていけそうだぞ」という予感でわくわくしている。

6.まとめ

こうして振り返ると、2021年考えていたことは主に2つ。

①せっかく今の仕事が、昔からの夢に近い形で実現しているのだから、しんどいながらも何とか楽しめるよう頑張ってみたい。その仕事のプロフェッショナルになりたい。

②頑張った分疲れてざわつく心を「メタ認知」によってうまく操縦したい。

来年のキーワードが引き続き「メタ認知」になるのか、何になるかはまだ分からないが。疲れたら休む、でも好きなことを好きなようにできるように。好きこそものの上手なれ、で一生やっていけるように。2022年も生きていこう。

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