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思いがけず、サーカス

 青春18きっぷを消費するために名古屋へ行ったことは昨日話した通りだ。ファン・ゴッホ展のために名古屋市美術館へ向かっている途中、思いがけず、とあるものを見つけた。美術館と科学館が建っている大きな公園に赤い大きな大きなテントが張られている。どれくらい大きいかというと、東京ドームでいうと1/10以下くらいの大きさだ。大きな大きなサーカステントの10倍以上もある東京ドームがいかに大きいか、よくお分かりいただけるかと思う。いや、危ない危ない。今日は東京ドームの話をしに来たのではない。サーカスの話をしに来たのだ。

 ファン・ゴッホを観終わり、サーカスの一般自由席の入場列に並び、その間にチケットを入手し、花粉の攻撃に敏感に反応するぼくの鼻水と格闘しながら、1時間ほど待つ。先に特別指定席の入場列がテントの中に入ってゆく。しばらくすると、ぼくの列もじわじわと動き始めた。入り口には大きな虎が描かれており、大きな虎の口の中に入ってゆく。しかし、そこはまだテント内ではない。テントをぐるりと囲む通路のような場所であり、グッズやお菓子、ドリンクなどが売られているお店が並ぶ。生ビール400円を見つける。クゥぅぅと唸るほど欲しくて欲しくてたまらないが、列に並んでいる途中、いつの間にか缶ビールをゲットしていたので生ビールを買わない。とはいえ、このサーカス会場でぼくは2本の缶ビールと1本の缶ハイボールを飲むことになるのだが…。

 ぼくはサーカスに行ったことがない。もしかすると幼い頃に連れて行ってもらったことがあるかもしれないが、記憶にないので、それは行っていないのと同じことである。結果のない努力は認められないように、記憶のない経験も認められないのである。


 自由席の最上段のいちばん端に席を取り、開演するのをいまかいまかと待っていると、2人の道化師、つまりピエロが出てきた。間抜けな服を着て、ヘンテコな髪型で、ひょうきんな鼻をつけ、アホくさい動きによって観客を笑わせる彼らは素晴らしいエンターテイナーである。

 開演時間になると、演者がたくさん出てきて、ショーが始まる。上から垂れている布を掴んで徐々に浮き、体の柔軟さを利用して滑らかに宙を舞う。その下では体操選手のように床を縦横無尽に飛び回る。マジックなんてものもある。若い男性が1人、横向きの筒の中に入り、その筒を等分するように7枚ほどの板が差し込まれる。そしてその筒が板ごとに等しく分裂する。さて、中に入った人はどこにいるのだろうか。もしかすると、彼は細胞分裂をして、それぞれの短くなった筒の中にいるのかもしれない、それともアコーディオン式に折り畳まれてひとつの筒の中に待機しているのか、あるいは、ひょっとすると装置自体に種や仕掛けがあるのかもしれない。

 第2部はライオンショーから始まる。1人の調教師と5頭のメスライオン。調教師のムチを合図に彼らが大人しく椅子に座るのだ。ライオンというよりは大きなネコみたいでかわいらしい。飼いたいと思った。急にに本能を剥き出しにして調教師を食べてしまったら面白いなんて不謹慎なことはもちろん思ったりしない。2頭のライオン。3頭のシマウマ。クライマックスの空中ブランコは圧巻である。

 動物の賢さと人間の身体能力の高さには敬服するばかりで、ぼくもサーカスに入ろうかなんて、冗談前提で思ったりした。ピエロくらいならできるかもしれない。なんなら、ステージの中央で七尾旅人の「サーカスナイト」を弾き語ってもいい。就活なんてするのはやめて、木下大サーカスの門を思い切って叩いてみようか。やっぱやめておこう。でもそれくらいファンタスティックでエキサイティングなエンターテイメントショーであったのは確かである。ありがとう、木下大サーカス。

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