【前編】次期日本銀行券における肖像人物の予想
序文
2024年7月3日。この日は、新しい日本銀行券(通称:お札)が流通を始めた日である。お札に描かれている人物と紙幣のレイアウトが一新され、ニュースでの報道や知人・友人との間でも「新しいお札もう見た?」なんて会話で話題になっている。ちなみに、ぼくはまだ見ていない。別に新しいお札がなんだという気持ちの反面、ぼくも早く新紙幣を見てみたいというじんわりとした焦燥感があり、この感覚は数年前に一瞬だけ一世を風靡した「クラブハウス」というアプリが登場したときの感じに似ている(こんなアプリがなんだという気持ちと、誰からも招待してもらえない焦燥感の間で葛藤していた)。
ぼくが物心ついてからこのかた慣れ親しんできた野口英世、樋口一葉、福沢諭吉の3人から、北里柴三郎、津田梅子、渋沢栄一の3人へバトンタッチされたわけであるが、とは言っても前者3人のお札は今後もしばらくの間は出回ることだろうからお役御免と言うには些か早すぎるだろうか。ぼくはこれまでお世話になった3人に別れを告げることを少し寂しく思っているのだけれど、世間の人はいち早くニューフェイスの日本銀行券を手に入れるべく、銀行に行列をなしているという。それを聞いたぼくは、いつまでも野口・樋口・福沢の3人への感傷に浸っている場合ではないと思い、みんなが気になって仕方がないであろう、次期日本銀行券の肖像に採用される人物を検討していきたいと思う。
なぜお札には肖像が描かれているのか
まず、次なるお札の肖像に抜擢される人物を予想するには、なぜお札に人物の肖像が描かれているのかという理由を知る必要がある。その理由は、この類の情報の信憑性において日本で最も信頼をおけるサイト「日本銀行ホームページ」にあった。
・偽造防止のため。
私たちは人の顔を見分けることに慣れているため、銀行券の肖像がほんの少しでもずれたりぼやけたりしていると違和感を持ち、偽造防止に繋がる。この観点から、肖像に使われる人物は、簡単に複製ができぬよう、髭をはやした人物であることが多い。
・人々に親近感を持ってもらうため。
その国で良く知られている政治家、文化人、有名人などを描き、その人物の業績などを再認識して親近感を持ってもらうとともに、銀行券自体についても認識を深めてもらう狙いがある。
(参考:日本銀行ホームページ)
というわけだ。なるほど、なるほど。
これまでの日本銀行券における肖像に採用された人物
そして、次なるお札の肖像に抜擢される人物を予想するには、これまでにどんな人物がお札になっていたかを知る必要がある。ということで、この類のデータの信憑性において日本で最も信頼をおける参考書「日本史用語集」(山川出版社・刊、2014年)を読みながら独自に解釈してみようと思う。
○これまでの日本銀行券における肖像に採用された人物
・菅原道真(845〜903):みんなご存知、学問の神様。遣唐使の中止を建議したことで知られるが、後に太宰府へ左遷される。大学4年の冬、ぼくは北野天満宮で「大学を卒業できますように」と絵馬を書いたのにもかかわらず留年してしまったから、菅原道真が学問の神様というのはきっと嘘だ。彼には凛々しい髭がある。
・和気清麻呂(733〜799):僧の身分でありながら天皇との不倫で太政大臣にまで成り上がったと噂をされる極悪人・道教を失墜させるため、その信託を下した(と道教が自称した)宇佐八幡宮まで出向き、それを偽託と見破った国民的英雄。彼にも凛々しい髭がある。
・武内宿禰:不明。
・藤原鎌足(614〜669):=中臣鎌足。よく名前をナカトミノカタマリと間違えられる。大化改新の立役者。髭がある。
・聖徳太子(574〜622):10人の人間が同時に話しかけても全てを聞き分けることができるという逸話を持つ人物。冠位十二階、憲法十七条、国史編纂、法隆寺建立など、その業績大きさと多さは絶大だ。立派なあご髭がある。
・日本武尊(?〜?):父・景行天皇の命令で熊襲・出雲・蝦夷を征討。その間、焼津での草彅剣の話などを残す。ヤマトの勇者の多数の物語を一英雄に形象化したものか。ある種の偶像。髭はない。
・二宮尊徳(1787〜1856):通称「二宮金次郎」。幕末の農生家。いつも薪を背負い、本を読みながら歩いている。現代でいう「歩きスマホ」とあまり変わりはないように思えるが……。髭はない。
・岩倉具視(1825〜83):ともみだが男性。公家であり政治家。岩倉使節団を組織して欧米列強の発展を目の当たりした彼は、江戸幕府を倒すべく薩長倒幕派と組み、王政復古を成し遂げようと尽力した。髭はない。
・高橋是清(1854〜1936):日銀総裁・蔵省を経て首相・立憲政友会総裁に。様々な内閣で蔵省を務め、金融恐慌を沈めるなどの活躍はあるが、特別目立った業績はあまりない。明治政府の便利屋的存在。髭がある。
・板垣退助(1837〜1919):自由民権運動。髭の形で大久保利通とよく間違えられるが、全くの別人である。もちろん、髭がある。
・聖徳太子:2回目なので割愛。
・伊藤博文(1841〜1909):日本における初代首相。その後4度も内閣を組閣し、晩年は元老となって初代韓国統監を務めたが、1909年に韓国ハルビン駅にて、青年・安重根に暗殺されてしまう。立派な髭がある。
・福沢諭吉(1834〜1901):みんな大好き福沢諭吉。元祖・慶應ボーイ。どうやら聞くところによると、天は人の上に人を作らないらしい。髭はない。
・新渡戸稲造(1862〜1933):国際連盟の事務局次長として活躍。髭がある。
・夏目漱石(1867〜1916):小説家。『吾輩は猫である』『こころ』『坊ちゃん』『三四郎』など。髭がある。
・樋口一葉(1872〜96):女流作家。『にごりえ』『たけくらべ』など。髭はない。
・野口英世(1876〜1928):アメリカへ渡り、ロックフェラー研究所員となって細菌学を研究する。黄熱病の研究ししている最中、自身が病気にかかり、アフリカで病死する。チョビ髭がある。
・北里柴三郎(1852〜1931):最近学者。ドイツに留学し、破傷風血清療法を発見する。1894年に香港でペストが流行した際には同地でペスト菌も発見する。彼がペスト菌を発見していなかったらカミュの小説のタイトルは『ペスト』でなかった可能性もある。そういう意味で、彼は文学へも影響を与えていると言っても過言ではない。髭がある。
・津田梅子(1864〜1929):岩倉使節団に随行した最初の女性留学生のひとり。なんと8歳で渡米する。帰国後は英語教育に熱心に取り組み、女学校や女子大学を設立する。髭はない。
・渋沢栄一:実業家でありながら、政治にも参加する。大蔵省に出仕し、税制・幣制改革に当たる。日本初の銀行を設立したのもこの人である。詳しくは大河ドラマ「晴天を衝け」を見よ。髭がない。
こんなところである。ちょいと長くなってしまった。なので、本題の次期日本銀行券における肖像人物の予想は後編につづくとさせていただくことにする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?