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それでも反戦を訴える

 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻後に、プロパガンダ真っ只中のロシアのニュース番組に生放送中に「NO WAR」と書かれた大きな紙を掲げて反戦を訴えた女性を覚えているだろうか。

 彼女の手記の冒頭の「日本の読者の皆さんへ」だけでも、本来は当たり前のはずの言論の自由と自由な選挙ができないロシアを、心から憂い嘆く気持ちが溢れている。

 日本では政策に自由に反対したり批判したりすることができる。選挙で候補者を自由に選ぶことができる。報道では、現政権を支持する意見だけでなく、批判する意見も見ることができる。

 日本の政治やマスコミでも、もちろん問題は山積みではあるが、オフシャンニコワさんが本書で語ったロシアは本当に酷い。ニュース編集者ではあったが、一個人として反戦を訴えているだけの一般市民の彼女から、ロシア政府は平気で権利や自由を奪おうとしてくる。その描写がリアルで、本当に恐ろしい。ナヴァリヌイ氏をはじめ、政敵とみなされた人や政権の意に沿わないとされたジャーナリストは、命まで奪われている。

 ロシアのメディアからの誹謗中傷や警察への拘束、プーチン支持者の元夫との親権争いなど、様々な理不尽な仕打ちに屈せず、何度でも反戦を訴え続ける彼女の凄まじい意思の固さはどこからくるのだろうか。

 オフシャンニコワさんはウクライナ人の父(幼い頃に死去)とロシア人の母の間に生まれたため、ウクライナにルーツがある(両親が出会い結婚したウクライナの美しい町のオデッサは、ロシアに爆撃された)。チェチェン戦争で難民となり、母とたった2人で貧しさと孤独を味わったつらい経験、ロシアのテレビ局で上の指示に従いプロパガンダを実施してきた大きな罪悪感があった。

 ロシアのウクライナ侵攻の事実を知ったとき、彼女はもうこれ以上、自分を殺すことはできないと思ったのだろう。ウクライナの人々の苦しみを自分ごとのように捉え、たとえ自分1人であっても反戦を訴えようとする姿には、本書を読んでいて何度も心を打たれた。

 そして、日本だったら、自分だったらどうだろうと考えざるを得ない。命を懸けても、人間として間違っていることに「NO」とはっきり主張できるだろうか。

 日本は選挙の投票率の低さから、政治に無関心な人が多いと考えられる。自分の国のことから世界で起きていることまで、どうやったら自分ごとと捉えられるのか。知識も必要になってくるだろう。

 一個人として自分には何ができるか。オフシャンニコワさんの手記が、多くの人の考えるきっかけになることを願う。


 


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