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桜庭一樹「荒野」から思う。成長とは何か・・

初版 2017年5月 文春文庫

あらすじ

鎌倉で小説家の父と暮らす少女・荒野。「好き」ってどういうことか、まだよくわからない。でも中学入学の日、電車内で見知らぬ少年に窮地を救われたことをきっかけに、彼女に変化が起き始める。少女から大人へ―荒野の4年間を瑞々しく描き出した、この上なくいとおしい恋愛“以前”小説。(アマゾン商品紹介より)

ゆるふわ日常系?
ほとんど何も起きない・・。
平凡な女子中学生が高校生になるまでの4年間の成長の話です。
主人公山野内荒野は部活動に熱中するわけでもなく、何かオタクな趣味を持ってるわけでも、色恋に奔走するわけでもありません。女友達3人組で喫茶店でおしゃべりしたり、学校でおしゃべりしたり、自宅でおしゃべりしたり・・・夏祭りに行くのは一大イベントだけど特に何事もなく・・・
本当に、どこにでも、誰にでもある、ゆるい日常のエピソードが描かれていきます。
正直、退屈になって何度も読むのを挫折しかけたけど・・
このある意味、振り切ったさざ波のような日常の中から何を抽出しようとしているのか、そこを掬い取りたい一心で何とか読み進めました。
・・・私の中学生の頃のほうがまだ、いろいろ波風あった気がするけど・・。

そんな荒野に対して、大人たちの存在がうすら怨念渦巻いていてキショいんです。
荒野の父親は小説家で、母親とはとっくに離婚し、お手伝いさんがずっと山野内家の世話をしていたんだけど、(荒野にとってはこの人が母親のようなものだった)別の女と再婚すると、お手伝いさんはあっさり出ていき・・。再婚してからも父の女遊びは絶えないようで、不倫の相手らしき女が入れ替わりやってきてはむき出しの感情をぶつけていくという。
後々に知ることになるんだけど、お手伝いさんとも男女の関係があったようで・・・。
再婚の母はお手伝いさんが使っていた食器など一切を捨てて、不倫相手の名刺を破いて食べたりと、たびたびエキセントリック姿をみせたり。
父はそんな女たちを自分の小説のネタにしていて・・。
たまに家にやってくる編集長のおじさんは荒野を見つけると下品な声で「黒猫ちゃん」などとからかう。・・などと。
そんな環境で育つ荒野は、大人たちの不穏な感情を敏感に察知しつつも、決してグレたり、ささくれだったりせず、再婚の母も、父も受け入れて、ぽこぽこ平和に生きています。
いや、そういう大人たちに囲まれていたからこそ、ドラマチックさより平穏を大事にしているようなところがあり。または、わざと子供の特権を行使して、知らんぷりを通していたようなところもあり・・・。
この処世術というのかな?それが、なかなかのものなんですよね~。
平穏の中に潜む清らかさというのかな?
余計なものをそぎ落とした中にある美?日本庭園の中にあるワビサビ?のような、はたまた、悟りを開いた禅寺の高僧のような。
なんにもない中の「無の境地」のようなある種の高貴さ?
そんなものが瑞々しくキラキラと浮かび上がって来るんです。
もちろん中学生がすべてこんなではないだろうし、大人がみんな本作の大人たちのようでもないんだけど・・。
淡いながらも恋をして、少しづつ、大人たちの心の内側に目を向け、知らんぷりをしていたことを知ろうとしていくようになる。
そんな荒野が、
大人への道を歩み始めて、成長していく姿を描いている。
ということらしいんだけど。
あんな大人たちの仲間入りしてほしくないなあ・・・。
なんて、つい思ってしまうのでした。
成長って?大人になるって?何でしょうねえ・・・。

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