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読書感想文

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読書感想「海峡」伊集院静

───少年にとって、父はそびえる山だった。母は豊かな海だった。 土木工事や飲食店、旅館などで働く50人余りの人々が大家族のように寄り添って暮らす「高木の家」。その家長の長男として生まれた英雄は、かけがえのない人との出会いと別れを通して、幼い心に生きる喜びと悲しみを刻んでゆく。瀬戸内海の小さな港町で過ごした著者の懐かしい幼少時代を抒情豊かに描いた自伝的長編小説。 「海峡」「春雷」「岬へ」と続く3部作の第1部─── 大人になるにつれて、時間がたつのが早く感じるという話をよく聞き

西加奈子「サラバ」上・中・下巻 から考える現代共感社会とか同調圧力とか

初版 2017年10月 小学館文庫 いや~時間かかった。長かった。 上・中・下・文庫3巻読了。 長い長い、家族の話。 僕と真逆の性格の主人公に全く共感できず、 終始イライラ、読むのも何度も挫折しかかり中断し・・・ 何とか意地で読み進めました。 この作家はこの物語をどう締めくくるのか、 その1点だけをよりどころにして・・ そしてそれは、あまりにも小さな小さな結末でした。 が、 こんな小さな結末に思わずホロリとさせられてしまうとは・・ 参りましたよ。 第152回直木賞受賞作。異

読書レビュー「渚にて」 ネヴィル・シュート

初刊        1957年 新訳版       2002年 創元SF文庫初版  2009年 あらすじ 第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700個以上の核爆弾が炸裂した。戦争は短期間に終結したが、北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国の原潜〈スコーピオン〉は汚染帯を避けてメルボルンに退避してくる。オーストラリアはまだ無事だった。だが放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた。そんななか、一縷の希望が

読書レビュー「赤い靴が悲しい」片岡義男 

初版 平成元年10月 祥伝社文庫 高校生の頃、みんなが赤川次郎をまわし読みしたりしてた時、 僕は一人で片岡義男を読んでいた。 まあ、どちらも今思えばラノベ的で、(いい意味で)軽薄で、 おおよそ文学賞とは無縁な、心の闇とかドロドロした人の業 などほとんど描かれない。 あの時代、80年代バブルのちょっと浮かれていて、湿り気の無い、カラッと爽やかな世情が色濃く表現されていたり。 たいした中身は無いんだけど・・・。 大人になってからも5年周期ぐらいで、無性に読みたくなるのですよ。

読書レビュー「哀しみの女」五木寛之

初版 1989年8月 新潮文庫 あらすじ 年下の画家・章司と暮らす和実は、たまたま見かけた異端の天才画家エゴン・シーレの作品「哀しみの女」に、自分の未来の姿を予感する。そして、彼女は、モデルであり画家の愛人でもあった女の薄幸な人生に、自分の運命を重ね合わせていた…。ウィーン世紀末の画家とモデルとの退廃的な関係を現代に重ねて、男の野心と女の愛を描く大人のための恋愛小説。 (アマゾン商品紹介より) この作品で、エゴン・シーレという画家も「哀しみの女」という絵も初めて知りました

読書レビュー「晴天の迷いクジラ」窪 美澄

初版 2014年7月 新潮文庫 あらすじ デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。どれほどもがいても好転しない人生に絶望し、死を願う三人がたどり着いた風景は──。命のありようを迫力の筆致で描き出す長編小説。 (新潮社HPより) 物

読書レビュー「銀の森へ」沢木耕太郎

初版 2018年 3月 朝日文庫 朝日新聞で15年続いた、沢木さんによる映画エッセイを「銀の森へ」「銀の街から」の二冊に書籍にまとめたうちの一冊です。 本作「銀の森へ」は1999~2007年までに執筆された「ローマの休日」「シックスセンス」「ミリオンダラーベイビー」「ロストイン・トランスレーション」「メゾン・ド・ヒミコ」などなどについての映画評、90篇を収載したものです。 1作品について約3ページ程度の、映画評としては短めの中文程度にすっきりまとめ、映画評論家の書く映画評と

読書レビュー「風神雷神」上・下 柳広司

初版 2021年3月 講談社文庫 上巻あらすじ 扇屋「俵屋」の養子となった伊年は、醍醐の花見や、出雲阿国の舞台、南蛮貿易の輸入品から意匠を貪り、絵付けした扇は評判を増す。すると平家納経の修理を依頼される栄誉に。さらに本阿弥光悦が版下文字を書く嵯峨本、鶴下絵三十六歌仙和歌巻の下絵での共同作業を経ると、伊年の筆はますます冴えわたる。 下巻あらすじ 俵屋を継ぎ妻を娶った宗達は、名門公卿の烏丸光広に依頼され、養源院に唐獅子図・白象図を、相国寺に蔦の細道図屏風を完成させる。法橋の位

読書レビュー「風神雷神Juppiter,Aeolus上・下」 原田マハ

初版 2022年11月 PHP文芸文庫 マハさん得意のアートフィクションです。 今回は架空の人物は登場しません。 登場するのはすべて歴史上、実在したとされる登場人物です。 主人公は俵屋宗達。その実像は謎に包まれているそうです。 マハさんはあえてそこに着目したんじゃないかな・・。 同時代に生きていた歴史上の人物、しかし、実際の関りは確認されていない人物たちを 縦横無尽に絡ませていきます。 狩野永徳。織田信長。天正遣欧使節。カラバッジョ。などなど。 いやはや、壮大な歴史ロマン、

読書レビュー「テロルの決算」 沢木耕太郎

初版 1982年9月 文春文庫 あらすじ 山口二矢は日比谷公会堂の舞台に駆け上がり、社会党委員長浅沼稲次郎の躰に向かって一直線に突進した・・・。右翼の黒幕に使嗾されたというのではない自立した17歳のテロリストと、ただ善良だったというだけではない人生の苦悩を背負った61歳の野党政治家が激しく交錯する一瞬を描き切る。大宅ノンフィクション賞受賞作。 本作は 昭和35年10月12日、日比谷公会堂で行われた立会演説会で、社会党委員長浅沼稲次郎が17歳の少年山口二矢が握りしめた一本の

読書レビュー「雪男は向こうからやって来た」角幡唯介

初版 2013年11月 集英社文庫  あらすじ ヒマラヤ山中に棲むという謎の雪男、その捜索に情熱を燃やす人たちがいる。新聞記者の著者は、退社を機に雪男捜索隊への参加を誘われ、二〇〇八年夏に現地へと向かった。謎の二足歩行動物を遠望したという隊員の話や、かつて撮影された雪男の足跡は何を意味するのか。初めは半信半疑だった著者も次第にその存在に魅了されていく。果たして本当に雪男はいるのか。第31回新田次郎文学賞受賞作。(アマゾン商品紹介より) これは、大真面目なUMA捜索ドキュメ

読書レビュー「その峰の彼方」笹本稜平

───人はなぜ山に登るのか という問いに正面から愚直に挑んだ山岳小説だと思います。 主人公の津田悟は冬のマッキンリーの難ルート単独登攀をして、遭難。 友人の吉沢と地元山岳ガイドたちによる捜索行を通して、 津田はなぜ危険な単独行に挑んだのか?安否はどうなのか? という事だけに焦点を絞って、 余計な伏線を張らずシンプルに描いています。 冬のマッキンリーと言えば、冒険家の植村直己氏が遭難した山としても有名で、ヒマラヤのエベレストと比較してもその危険度は高い山。 と、素人でも知

読書レビュー「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」 角幡唯介

初版 2012年9月 集英社文庫 あらすじ チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の五マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠るのは、これまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も顧みずに挑んだ単独行の果てに目にした光景とは―。第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。(アマゾン商品紹介より) 角幡さんは、僕がこれまで

読書レビュー「旅をする木」星野道夫

初版 1999年3月 文春文庫 つい数日前ぼんやりとネットサーフィンしていて、ふと本書の文庫版カバー写真が目に留まり、リンク付けしてあったアマゾンで内容を調べた時、恥ずかしながら僕は星野道夫さんという人を初めて知りました。 19歳の時、神田の洋書店で見つけたアラスカの写真集に魅せられ、住所もよくわからずあてずっぽうでアラスカインディアンの村に直接手紙を書いたところ、思わず村長から返信があり、ホームステイに招かれる。1978年26歳でアラスカ大学に留学し、以来、アラスカを拠点