息子はお金を稼ぎたい。
「みんなお小遣いもらってるんだって」
と、5歳息子・いちくんが言い出したとき、うを、「みんな」が出た!と思った。みんなって誰、と言うと名前が出てこない、架空のみんな。恐らくマジョリティと言うほどの人数はいないだろうと思われるみんな。こどもはみんな、みんなって言うのよね〜。
それはさておき、話の続きを聞いてみると、どうやらクラスの中に、お手伝いをすることで親からお小遣いをもらっている子がいるらしい。
ほう。
はっきりとは言わないが、どうやら自分もそうしたい、ということらしい。
お小遣いを定額制にするか、お手伝い制にするかは家庭の判断によるところだが、なんとなくお手伝い制に抵抗がある。
共働き世帯ゆえ、自分のことは自分でやるようになってほしいし、いずれは「チーム」として、親がどうにもならない時は助けてほしい。
「うーん、ママはね〜、お手伝いでお小遣いをあげるのはあんまりしたくないんだよね。もう少し大きくなったら、毎月決まったお金をあげようかと思うんだけど、どうだろう」
「え〜……うーん……」
すると息子は、ハッとしたような顔で言った。
「お金をかせぐなら、お店を開いて、お客さんに買いに来てもらえばいいんじゃない?」
息子の願望は、斜め上にグインと曲がっていった。
「え、お、お店? 何売るの?」
「ほら、このあいだママのスマホで無限にイチゴを増やすやつみたじゃん」
息子が言っているのは、先日二人でたまたま見たTikTok動画だ。安いいちごを自然乾燥させて種を取り出し、それを使ってプランターイチゴを栽培する方法を動画にした、農業系インフルエンサーの投稿。「無限にイチゴを作れるんだって! すげー!」と言っていたが……そんなに彼の心に刺さっていたとは思わなかった。
「無限にイチゴを作って売ればさ、にぃちゃん(※3歳妹の愛称)みたいにイチゴが好きな人が買いに来てくれるんじゃない?」
「いや、確かにたくさんイチゴとれてたけど、そんなに簡単には……」
「あとあれも売ろう! ママが持ってる種のやつ」
種のやつとは、以前某不動産会社がDMに潜ませてきた、ラディッシュの種のことである。
プランターで種から野菜を育てて収穫できたら楽しそうじゃない!?と100均で道具を揃えたが、いろいろあって使う前の状態のまま、全て靴箱の中に押し込まれている。
「イチゴは200円で、ラディッシュは100円!」
「それは安い」
いやいやでも八百屋さんでもないただの一般人が野菜を売るのはね……。
「折りたたみの机をおいて、パラソルをセロハンテープでくっつけてさ、ライトでピカピカって光らせれば、お店できるよ!」
すごいビジョン描けてるなぁおい!
もはや何の話をしていたのか私も彼もわからなくなってきた。
このあともしばし対話を続けたが、どうやら「お小遣いが欲しい」<「お店で野菜を売りたい」になってしまったらしく、「お客さんからお金をもらわないと意味がない」などと言い出した。
ちなみに野菜を作って路上で売る、という発想は、おそらく義実家が農家と八百屋を生業としていることに由来する。きっと、彼にとってもっとも身近な商売なのであろう。
老いも若きも働きたくないという人が多い中で(※肌感覚です)稼ぐ意欲があるのは素晴らしいこと。
母はスマホをポチポチいじって、金融教育を検索するのであった。
つづく、か?