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訳詞「誰が駒鳥殺めたか」※「クックロビン音頭」の元ネタを翻訳

<訳詞>

「誰が駒鳥殺めたか」
(Who Killed Cock Robin?”)   訳・悟塔雛樹

誰が駒鳥殺めたか
俺だと雀がものを言う
弓を絞って矢を放ち
俺があいつを殺めたと

誰が躯(むくろ)を見つけたか
俺だと蝿がものを言う
芥子粒(けしつぶ)ほどの目を凝らし
俺が躯を見つけたと

その血を誰が取ったのか
俺だと魚(うお)がものを言う
小さな皿の中ほどに
俺があいつの血を取った

死装束(しにしょうぞく)を誰が成す
俺だと言うは甲虫(かぶとむし)
針と糸とを操って
死装束を拵(こさ)えよう

誰が墓掘り務めよう
俺だと梟(ふくろう)ものを言う
鶴嘴(つるはし)立てて鋤(すき)刺して
俺が墓を掘り抜こう

誰が司祭を務めるか
俺だと言うは山烏(やまがらす)
俺が小さな祈祷書で
司祭の役を務めよう

誰が付き人務めるか
俺だと雲雀(ひばり)がものを言う
まだ日が落ちぬというのなら
俺が付き人務めよう

誰が松明(たいまつ)運ぶのか
俺だと鶸(ひわ)がものを言う
枝を拾って火を灯し
俺が運ぼう松明を

誰が喪主を務めるか
俺だと鳩がものを言う
愛の心で喪に服し
俺が喪主を務めよう

誰が棺を担ぐのか
俺だと鳶(とび)がものを言う
夜を徹してでないのなら
俺が棺を担(かた)げよう

誰が棺を覆うのか
俺だと言うは鷦鷯(みそさざい)
俺と妻とが二人して
棺に布を被せよう

賛美歌だれが歌うのか
俺だと鶫(つぐみ)がものを言う
小木(おぎ)の梢(こずえ)に止(とど)まって
俺が歌おう賛美歌を

誰が鐘を鳴らすのか
俺だと言うは雄の牛
重い鐘でも引っ張って
俺が鐘を響かせよう

空の全ての鳥たちが
漏らす溜め息 啜(すす)り泣き
響き渡った鐘の音が
哀れな駒鳥送り出す

<解説>

イギリスの童謡集「マザー・グース」より、Who killed Cock Robin? を訳してみた。日本語のリズムを重視した、七五調訳である。リズム重視ということは逐語訳ではないということなので、原文の意味を犠牲にしているところがある。cock robinとは本来、雄の駒鳥だ。原文で生き物の名前は大文字で始まっているので、やはり擬人化だとは思うが、訳詞を見る限り駒鳥の性別は分からないであろう。また英語の「I」からも性別は判断できないが、葬儀を行う「人物」の一人称は「俺」で統一した。他の一人称ではリズムが取れないし、女性的なものを不用意に使うと怖い雰囲気が柔らかくなってしまう。つまり厳密には正確な翻訳とは言えないわけだが、日本語の詩として成立するためにはどんな翻訳も多少は妥協せざるを得ないものなのだ。その塩梅やバランスが翻訳者の腕の見せどころなのだが、うまくできているかどうか。いずれにせよ、訳者による創作は混じっている。

詩の詳しい意味を解説するのは、野暮であろう。こういう完成された、また歴史に揉まれて生き残ったコンテンツは本来は各自が解釈するべきだ。童謡である、というのも十分に考慮されねばならない。筆者の翻訳はせいぜい、「マザー・グース」というイギリスの古い童謡集への案内である。ただ偉大な詩人で最近亡くなられた谷川俊太郎さんは「マザー・グース」の翻訳をだしていらっしゃった。筆者は参照していないが(自分の練習として訳したので)、ご興味があればどうぞ。

恐ろしい雰囲気を醸し出すのは、童謡の特徴だろうか。日本でも「かごめかごめ」「通りゃんせ」などは怖い歌であろう。だがこういう雰囲気を茶化したのが漫画家の魔夜峰央(まや・みねお)が作詞した「クックロビン音頭」で、こちらのほうが有名ではないだろうか。1970年代生まれの筆者の世代の方はもれなく、「パタリロ」という漫画をご存知だろう。そのアニメ版のエンディングで「クックロビン音頭」は流れていた。当時小学生だった筆者はもちろん元ネタを知らなかったが、楽曲だけでも楽しかった。魔夜峰央氏はかなり知的な方で、「パタリロ」もそういった蘊蓄(うんちく)で溢れているようだ。

「マザー・グース」はパブリックドメイン(著作権フリーのコンテンツ)であり、翻訳や掲載には問題ない。他にも練習で訳しながら、著作権の問題から掲載しづらい訳詞があるのは残念である。コンテンツ保護は重要だが、あまりこだわりすぎると却って文化縮小を招くのではないか。目先のことにこだわって、自縄自縛しないよう心がけていきたい。


<原詩>

Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
with my bow and arrow,
I killed Cock Robin.

Who saw him die?
I, said the Fly,
with my little eye,
I saw him die.

Who caught his blood?
I, said the Fish,
with my little dish,
I caught his blood.

Who'll make the shroud?
I, said the Beetle,
with my thread and needle,
I'll make the shroud.

Who'll dig his grave?
I, said the Owl,
with my pick and shovel,
I'll dig his grave.

Who'll be the parson?
I, said the Rook,
with my little book,
I'll be the parson.

Who'll be the clerk?
I, said the Lark,
if it's not in the dark,
I'll be the clerk.

Who'll carry the link?
I, said the Linnet,
I'll fetch it in a minute,
I'll carry the link.

Who'll be chief mourner?
I, said the Dove,
I mourn for my love,
I'll be chief mourner.

Who'll carry the coffin?
I, said the Kite,
if it's not through the night,
I'll carry the coffin.

Who'll bear the pall?
We, said the Wren,
both the cock and the hen,
We'll bear the pall.

Who'll sing a psalm?
I, said the Thrush,
as she sat on a bush,
I'll sing a psalm.

Who'll toll the bell?
I said the bull,
because I can pull,
I'll toll the bell.

All the birds of the air
fell a-sighing and a-sobbing,
when they heard the bell toll
for poor Cock Robin.

(最後までお読みいただき、ありがとうございました。)


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悟塔雛樹
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