その本屋らしさには人が大きく関与している
第1章 本屋のたのしみ (16)
だから、その本屋らしさをつくっているのはほとんど、そこで働く人であるといえる。
もちろん、棚に並ぶ本を、ひとりの人間の完璧なコントロール下に管理することは、なかなかできない。どの本が売れるかは客次第であるから、同時に客によってつくられているともいえる。店という場所には、予想外の急な出来事がたくさん起こる。本は人によって能動的に発注されるものだけではない。新刊書店であればシステマティックに、古書店であれば誰かからのとして、受動的に入荷することも多い。入荷した本を、大した判断もできないままとりあえず並べる、ということも往々にしてある。
また、そもそも品揃えの能動的なコントロールを、どのくらいまで効かせることを目指すかということにも、本屋それぞれの考えがあらわれる。コントロールが効きすぎると、それは担当者ごとに品揃えの偏りという形であらわれ、客に特定の思想や価値観を押し付けることにもなりかねない。かといって客の購買と受動的な入荷に任せるだけにしていると、なんの特徴もない、ただの出版流通の末端にすぎない存在にもなりかねない。
その本屋らしい選書、その本屋らしい並べ方。コントロールの効かせ方。それは、本を仕入れ、陳列する個人のフィルターにかかっている。たとえばとある大きな書店で、ひとつのジャンルの担当者が替わる。店の棚にはそれまで陳列された本による「内部に張り巡らされたかたちの相補性」があるから、急に大きく変わることはない。けれど、その先のひとつひとつの仕入や陳列の判断が、個人のフィルターを通じてなされていく以上、どれだけ過去を参照しようとも、緩やかには変わっていく。
だから本屋に、まったく同じである瞬間はない。けれど一方で、その本屋らしさは、まったく変わらないこともある。少なくとも急に大きく変わることはあまりない。それはすべて、舵を取る人が支えているのだ。
※『これからの本屋読本』(NHK出版)P47-48より転載
いただいたサポートは「本屋B&B」や「日記屋月日」の運営にあてさせていただきます。