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本屋×メディア

第6章 本屋と掛け算する(12)

 どうせ本屋をやるのであれば、本の製作から販売まで行いたい。そのような考えは珍しいことではなく、一九一三年創業の岩波書店は当初は古本屋であったし、大手書店チェーンである紀伊國屋書店や三省堂、丸善なども昔から本をつくっている。東京・渋谷の新刊書店である「SHIBUYAPUBLISHING&BOOKSELLERS(SPBS)」は、当初からその名に出版を掲げている。 

 小さな本屋であっても、出版の可能性はたくさん転がっている。店主自身もいろいろなことに関心を持ちながら店をつくっているので、自ずと知識や情報も増えていく。本を触っているうちに、自分であればこの本はもう少しこうしたいとか、このような本はなぜ出ていないのだろうかとか、本自体に向かう思いも生まれてくる。あるいはきちんとした単行本でなくとも、イベントで話した内容やギャラリーで行った展示を、小冊子的なものとして編集して販売したくなることもあるはずだ。もちろん、ISBNを取って出版社として本格的に活動してもよいが、リアルの本屋が主であれば、まずは小さな形からスタートしたほうがよいかもしれない。どういう本をつくるかによって、自分の店のアイデンティティを示すこともできる。自店だけで売り切れない場合は、共感する他の書店にも声をかけて、直接取り扱ってもらえばよい。

 あるいはウェブメディアをやることもできる。そもそもSNSをやるのであれば、すべての本屋がインターネット上で発信をすることになる。加えて自店のサイト上に、オリジナルのウェブメディアをつくれば、よりストック的な情報発信もできる。特にギャラリーやイベント、教室や読書会など、独自のコンテンツやコミュニティを持っていれば、それらはウェブ上でオリジナルのコンテンツになる。イベントや読書会のレポートを掲載することや、作品のオンライン展示をすることもできるし、教室の受講生の成果発表の場にすることもできる。もちろん本格的にはじめようと思えばコストがかかるが、アクセスが増えれば店の宣伝になることはもちろん、広告を掲載したり商品を販売したり、別の有料コンテンツをつくったりすることで、収益化を目指すこともできる。

 とはいえ、紙であれウェブであれ、メディアを収益化するのは簡単なことではない。本を出している出版社や、ウェブメディアを運営している企業のことを思い浮かべて、それだけを真剣にビジネスとしてやっている人と同じ土俵で戦えるか、あるいは全然別の土俵があるかを考えてみるのがよい。リアルの本屋という接点を持っていることは強みで、そうした意味ではまだ紙のほうが、たくさんの在庫を抱えても少しずつでも直接売っていくことができるぶん、やりやすいかもしれない。

 その意味では、全方位的な品揃えの本屋よりも、特定の濃いコミュニティを持っている本屋や、専門書店のほうに強みがあるかもしれない。小さな規模でやる場合、一冊の本やひとつのウェブメディアは、ある程度ターゲットが絞れているほうがやりやすいからだ。たとえば犬の本の専門書店であれば、犬に関する雑誌やウェブメディアを立ち上げて、犬に関する記事を載せたり、犬のグッズを通販したりする。客のコミュニティが最初から犬好きに限定されているから、自発的にメディアの運営を手伝ったり、コンテンツを掲載したいという人も集まりやすい。読者のターゲットが絞れているぶん、広告の効果も出やすい。店が小さくても、客にとって家から遠くても、空間的な制限がないぶん、専門特化した本屋を中心としたコミュニティのひとつの自主的な活動として、相対的に広がりを持ちやすいといえるだろう。

 逆に、メディアとしての力を既に持っている人が、本屋をはじめるケースも面白い。日本では芸能人が店をやるというと大半が飲食店であるが、たとえば韓国のソウルには、有名な本好きのアナウンサーがやっている本屋や、人気のあるバンドがやっているブックカフェなどがある。彼ら彼女らはSNSで大きな影響力があり、実際にテレビなどのメディアに出る機会もあるので、そこで紹介した本が大きく動く。当然、彼らの店でもその本を売る。忙しい中でもたまには店頭に立ち、ファンも店に訪れる。店主自身の持つメディアとしての力を上手く本屋に生かすことで、ふだんは本屋に行かない層の人たちにも、本を届けることができる。 

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P224-P226より転載


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内沼晋太郎
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