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ターゲット

第4章 小売業としての本屋(8)

 主な対象となる購入者層のことを、ターゲットという。ところが本は多品種で、老若男女さまざまな人が読む。そのため、特に全方位的な品揃えをしている書店は、ターゲットは商圏に存在するすべての人であることが多い。もちろん、一冊一冊それぞれの本は、ターゲットが狭いものも多い。そうした本は書店の中でもまとめられ、店内の棚やエリアごとに、ターゲットが絞られる。児童書の棚であれば子どもとその親。男性誌はもちろん男性で、女性実用書は女性だ。また、立地によっては、店全体としてもターゲットをより明確に定められる店もある。完全なオフィス街であれば、平日のビジネスマンが主なターゲットだろう。

 しかし本屋が必ずしも生活に必要な場所でなくなり、本屋が「本好き」「本屋好き」のための場所になっているいま、店づくりを明確にするために、あえてターゲットを絞っていくアプローチも検討するべきだ。

 たとえば、専門書店と呼ばれる店は昔からある。こうした店のターゲットは明確で、東京・神保町の建築書専門店「南洋堂書店」には建築家や建築を学ぶ学生が集まり、大阪・千日前の料理書専門書店「波屋書房」はプロの料理人御用達だ。店に訪れるのは主に専門家やマニアで、ライトユーザーはあまり来ない。

 しかし最近の専門書店は少し違っている。東京・三軒茶屋にある「Cat’s Meow Books」は、猫本専門店だ。猫の専門家も来るかもしれないが、あくまで普通の「猫好き」が集まる店である。ビールも出しているので、近所の住人も会社帰りに立ち寄る。一般にたくさん存在する「猫好き」を主なターゲットにして、その周辺の人が集まる。ジャンルは狭いが、間口の広い店といえるだろう。

 二〇一八年三月に日比谷シャンテの三階にオープンした「HMV & BOOKS HIBIYA COTTAGE」は、そのコンセプトを「女性のための本屋」と、はっきり言い切っているところがユニークだ。立地的にも、決して女性しか来ないような場所ではない。けれど「女性のため」と一度ターゲットを絞る。もちろん男性の入店を拒むわけではないが、まずはターゲットとしている女性像を第一に考えながら店づくりをすることで、一般的な本屋からは足が遠のいていた女性にも、入りやすい店になっている。老若男女すべてをターゲットにするよりも、品揃えに個性を出すことができ、結果的に間口を広げたのではないだろうか。

 いま、商圏のすべての人を対象にすると、逆に無色になってしまい、誰からも求められない本屋になってしまう恐れがある。ターゲットを一度ある程度絞り、店のカラーをはっきりさせることで、逆にふだん本屋に足を運ばない人にまで、あらためて間口を広げていける可能性がある。このことは、これから本屋をはじめる一つの醍醐味であるといえる。万人に開かれた業態であるという本来の特性はそのとき、結果的に活きてくるといえるだろう。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P178-P180より転載


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