一番身近な本屋は親
第3章 本屋になるとはどういうことか (5)
とはいえ、「本をそろえて売買する」には仕入れをしなければならないし、「本を専門としている」といえるほど自分の知識に自信がなければ、いくら小さくはじめるといっても、ハードルが高いと感じられるかもしれない。
けれどぼくは、必ずしも最初から「そろえて売買」をしなくてもよいし、「専門」というほど知識がなくとも、単に本を選んで手渡す側と受け取る側という関係が成立すれば、手渡す人を広義の「本屋」と捉え、そういう人を増やしていきたいと考えている。
そう考えたとき、一番身近な「本屋」のかたちは、親である。多くの場合において、子どもが最初に手にする本は、親が選んで買い与えたり、読み聞かせたりするものだ。あなたが自分のお金を持つようになる前の、小さな子どもの頃から本好きだったとするならば、あなたの親はあなたにとって「本屋」だったはずだし、もしあなたに子どもがいて、本を選んで買い与えているとするならば、あなたは既にその子どもにとって「本屋」であるといえる。
子どもを本好きにしたい、と考える親は多いはずだ。そのためには、書店や図書館に連れて行くことはもちろんだが、家にも大きな本棚があり、親も面白そうに本を読んでいる姿を見せることが大事だ、と言われている。子ども向けの本も並んでいる。けれど親はより難しそうな、大人向けの本を読んでいる。少し興味を示すと「これは大人向けだから、まだ読めないよ」などと言われ、子どもの側も余計に気になる。いつか読めるようになりたい。そのような、本に興味を持つように子どもの環境をつくることは、言い換えれば、子どもにとってのよき「本屋」になるということだ。
もちろんこれは、親子間に限らない。先生と生徒、友達同士など、いろんな関係性の中に本を手渡す「本屋」がいる。先生や友達に何気なく勧められた本が、自分の人生にとって大切な一冊になり、それがきっかけで本を読むようになったという人も多いはずだ。よき「本屋」との出会いなしに、人が本好きになることはあり得ないといっても過言ではない。
そのような意味で、本書を手に取るような人は、既に誰かにとっての「本屋」になった経験がある人が多いのではないかと思う。
※『これからの本屋読本』(NHK出版)P100-101より転載
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