顧客満足度を上げるために
第7章 本屋を本業に取り込む(3)
集客や営業につながらなくても、既にいる顧客に対して、本という要素を追加することがひとつのサービスとして有効に機能したり、何らかの付加価値となったりすることが考えられる。
たとえば、顧客の待ち時間が発生しやすいビジネスの場合、閲覧あるいは購入できる本が並んでいることで、その時間を有効活用してもらうことができる。そこで過ごした時間全体を通して体験の質を上げることができれば、また再訪したくなる。
また、主として販売している商品に、専門的でわかりにくい部分があったり、種類やその使用方法にバリエーションがあったりする場合は、それを説明する本や関連する本を近くに置いて販売することによって、わかりにくさや選びにくさを解消することができる。本来であれば接客が必要な部分を、本の販売によって補完することができる。
このように、本業におけるサービスや接客、陳列、販売におけるひとつの工夫として本を取り入れることによって、顧客の満足度を上げることがあり得る。独自の魅力とすることができれば、競合相手との差別化にもつながる。
CASE 4:美容室の鏡ごとにライブラリをつくる
街角の美容室。ここのところ、近隣にたくさんの美容室ができて、競争がはげしくなってきている。通ってくれている客の顔を思い浮かべながら、少しでも喜んでもらえるサービスをと考えて、その人たちのために本を選んで、揃えることにした。
これまでもファッション雑誌などは用意していたが、それはどこでもやっていることだ。パッと見てわかる特徴を出すために、鏡のまわりを本棚にして、鏡ごとに選書のテーマを設けている。しばらく時間が経って傷んできた本は、店のロゴの入ったステッカーを貼って、無料で差し上げることにしている。家の本棚に並べてもらうことで、自分の美容室を思い出してもらえればうれしい。
CASE 5:自転車屋の一角で自転車関連の本を売る
さまざまなパーツを扱う、マニアにも評判の自転車屋。これから自転車にこだわってみたいという初心者の人も大歓迎なのだが、ややハードルが高いと感じられてしまうこともあるようだ。よりわかりやすい店づくりをしたいと考え、一角で本を売ることにした。
自転車の構造やメンテナンスに関する本はもちろん、自転車で行ける旅のガイド、サイクリングに関するエッセイなどを取り揃えている。接客されるのが苦手そうな人も本で情報を得て尋ねてくれるようになったし、修理で手が離せないときの問い合わせにも、本を案内することができるようになった。
CASE 6:八百屋で野菜別にレシピ本を売る
国産のオーガニックな野菜が揃っていることで人気の八百屋。しかし使い勝手のよく手ごろな価格のデリが近所にオープンしてから、少し売上が下がってきた。自分で料理をするのが好きな客にもっと楽しんでもらおうと、商品棚をリニューアルして、野菜別にレシピ本を並べて売ることにした。
つくる料理を決めて来店している人は買う野菜も決まっているが、決めていない人は野菜を見ながら料理を考えている。レシピ本はその助けになる。実際にスタッフが料理してみて、お勧めのレシピに付箋をつけたまま本を売るサービスも好評だ。客とスタッフとの間で「あれが美味しかった」というような会話も生まれるようになって、常連客が根づいてきた。
※『これからの本屋読本』P269-273より転載/イラスト:芦野公平
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