【目次】『これからの本屋読本』をすべて無料で公開します。【全文公開】
note版に寄せて
noteにて『これからの本屋読本』の本文をすべて、無料で公開することにしました。版元であるNHK出版さんの許可も得ています。
なぜ全文を無料公開するのかについては、本書の第2章(あるいは2013年刊の前著『本の逆襲』の第2章)あたりから推察していただけるでしょう。著者としては、自分が書いた文章を「一つの流動的な構築物」の一端にしたいという思いで、このnoteという場所を選びました。
ぜひ多くの人に読んでいただき、自由にコピペして引用して、議論の土台にしたり、本屋の開業の参考にしたりしていただければと思っています。結構がんばって、読みやすいように記事を分けたりしました。何事も起こらなかったらさびしい気持ちになるので、どうかよろしくお願いします。
もし〈1600円+税〉以上の価値を見出していただけたら、紙の本や電子書籍をお買い求めいただければうれしいです。特に紙版はモノとして珍しいつくりになっているので、おすすめです。
それでは、どうぞ。
※2018年11月5日、第3章までを一気に公開しました。それ以降、平日毎日午前7時にひと項目ずつ更新していき、2019年2月20日、全文が完全に公開されました。
はじめに
本が好きで、二〇〇三年、新卒で入社した会社を二か月で辞めて、フリーターになった。なんとか本の仕事で食べていけないかと考えていた。今年は二〇一八年なので、それから一五年が経ったことになる。
いまは東京・下北沢で「本屋B&B」という四五坪の新刊書店を経営している。「B&B」というのは「BOOKS & BEER」の略で、店内でビールを飲むことができる。また、毎日イベントを開催していて、平日は毎夜、土日祝は昼と夜二回、さまざまなゲストを招いて、平均で五〇人、最大で一〇〇人ほどの人たちが集まる。
自分の店以外にも、「NUMABOOKS」という屋号、「ブック・コーディネーター」という肩書で、本と人との出会いをつくる、さまざまな仕事をしている。一五年前のぼくからみれば、たいそう幸運なことだ。行政からあらゆる業種の民間企業まで、本に関する稀有な相談事が、主に出版業界の外側からやってくるようになった。新刊書店の経営者で、古本屋の社外取締役でもあり、昨年には出版社もはじめたので、内側の事情も複数の角度から痛感できるようになった。ときにプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、携わらせてもらえることが増えていくのは、個人的にも大きな喜びとなっている。
本書は、本の仕事をしながら、本屋についてこの一五年間にわたってぼくが調べ、考えてきたことを、いま、本と本屋を愛する人たちに伝えておきたいと思って書いた本だ。
昔ながらの本屋がきびしい。背景にはもちろんインターネットとスマートフォンがある。一方で、小さな本屋をはじめる人が増えている。これは日本特有の現象ではなく、どうやら世界中の、特に読書人口が多い先進国では共通する流れのようだ。必ずしも儲かりはしない。けれど、本を愛する人が、本を愛する人のために本屋を開く。そこには大抵、これからの時代に継続していくための、従来の本屋にはない新しいアイデアがある。
本書はそのような、これからの小さな本屋像について知りたい、考えたいという人に向けて書いている。紹介している事例は日本国内のものが中心だが、隣国の韓国や台湾のことにも少しだけふれた。日本語で書いてはいるが、前提とする状況が似ている国の、世界中の同志たちに役立つ本にすることを目指した(翻訳版が出ればだけれど)。
本書で明らかにしたいことは三つある。本の流れに沿って説明する。
一つ目は、本と本屋の魅力。なぜこれほど厳しい、儲からないと言われながらも、皆が本屋に愛着をもち、続いてほしいと願ったり、自らはじめたりするのか。あらためてそれを明らかにしたい。まず、客の視点から整理する(第1章)。次に、そもそも本とは何であるのかを紐解いたのちに(第2章)、それを扱う本屋の視点から考える(第3章)。
二つ目は、本を仕入れる方法。小さな本屋を開きたいという情熱をもった個人がこれだけいるのに、その方法についてはなぜかまとまった情報がない。それを網羅し、明示したいと思う。流通の事情は各国で異なるので、このパートだけは日本ローカルの話だ。紙もグレーに色分けして、いわゆる「別冊」のつもりで書いた。必要な人だけ読んでほしい(別冊)。
三つ目は、小さな本屋を続けるための考え方。ここまでを前半の基礎編とすれば、ここからは後半の実践編といえる。まず小売業としての本屋について解説する(第4章)。そこから、本屋で生計を立てていくための「ダウンサイジングする」(第5章)と「掛け算する」(第6章)という二つのアプローチを挙げ、その実例としての鼎談を収録する(Talk)。その後、必ずしも本屋で生計を立てない「本業に取り込む」(第7章)と「本業から切り離す」(第8章)という二つのアプローチについて書く。最後に、ぼく自身のケースを紹介する(第9章)。
扱う対象の大きさに比して小さな本ではあるが、実務の傍ら書いたこともあり、執筆には丸三年かかった。本屋の書いた本なんてもう読み飽きたよ、という声が聞こえる気もする。けれど本書はたぶん、網羅性と実用性という点において、過去のどんな本とも違っている。
不十分であっても、見渡せる地図が、立ち戻れる教科書があるべきだ。若輩者が畏れながらも目指したのは、そういう本だ。
目次
第1章 本屋のたのしみ
何時間でもいられる/途方もなさの構造/一番身近にある世界一周旅行/旅支度のたのしみ/本屋は出会いの場/目的の本が見つかるよろこび/あたらしい興味に出会うよろこび/本屋は大きいほどよいか/物理的に圧倒されるよろこび/本好き、本屋好きという人たちの存在/本は読むまでわからない/読み切れなくても買う/本屋の客の、個人の蔵書/本屋の棚の変化は早い/本屋は動的平衡が保たれている/その本屋らしさには人が大きく関与している/遠くの本屋を訪ねる価値/書店と本屋
第2章 本は定義できない
コードがついているものが本か/出版流通に乗っているものが本か/印刷されて製本された冊子/印刷も製本もない時代から/電子書籍の普及とウェブサイトとの境目/フィニッシュ、編集、論点やナラティブ/すべてのコンテンツが本か/コミュニケーションも本かもしれない/「読み得る」すべてのもの/物之本と草紙/問いを立てる力/本屋が本として扱っているもの
第3章 本屋になるとはどういうことか
本を専門としている人/最初に配るアンケート/本屋で生計を立てられるか/生計を立てなくても本屋/一番身近な本屋は親/店とは、話しかけられる側の人/紙の本の扱い方は変わっていく/いま紙の本を選んで届けることのささやかな意味
別 冊 本の仕入れ方大全
1.本を仕入れる前に
この別冊について/本が読者に届くまで/新品?新刊?新書? 古本?古書?/新品と古本、それぞれの特徴
2.新品の本を仕入れる五つの方法
⑴ 大取次の口座を開く
大取次とは/口座開設までの流れ/契約できる条件は多層的/保証というもうひとつのハードル/初期在庫の選書と手配/日々の入荷/多様な発注方法/返品はケースバイケース
⑵ 小さな取次の口座を持つ
中小取次の多様性と仲間卸/鍬谷書店/弘正堂図書販売/子どもの文化普及協会/小規模出版社に強い取次/大取次による中小取次的サービス/さらに多様な出版取次
⑶ 書店から仕入れる
書店も二次卸ができる/どのように書店に依頼するか
⑷ 出版社から直接仕入れる
直取引とは/直取引出版社とリトルプレス/トランスビュー取引代行/組み合わせて小売らしい形を
⑸ バーゲンブックを仕入れる
バーゲンブックとは/八木書店
3.古本を仕入れる四つの方法
⑴ 古書組合に入る
古書組合とは/交換会とは
⑵ 他人から買い取る
買取と古物商/どのように買い取るか/蔵書を引き取るということ
⑶ セドリをする
セドリとは/まずは自分の蔵書を売る/現代的なセドリ
⑷ 古本卸を使う
古本卸
出版取次一覧
第4章 小売業としての本屋
本をそろえて売買する/資格と経験/売上と経費/客数と客単価/内装と陳列/接客/立地と商圏/ターゲット/営業時間/昔ながらの本屋と、これからの本屋
第5章 本屋をダウンサイジングする
小さな本屋/人を雇わない/自宅を兼ねる/一等地ではない立地/見渡せるサイズ/短い営業時間/世界観をつくりこむ/粗利率を上げる
第6章 本屋と掛け算する
掛け算とは何か/何とでも掛け算できる/本を売らない本屋のあり方/本屋×飲食業/本屋×ギャラリー/本屋×イベント/本屋×教室/本屋×読書会/本屋×雑貨/本屋×家具/本屋×サービス/本屋×メディア/本屋×空間
Talk 本屋として生きるということ
内沼晋太郎×堀部篤史(誠光社・店主)×中村勇亮(本屋ルヌガンガ・店主)
事業計画書/誠光社を続けて感じたこと/数字よりも、生き方としてお店を始める/時間の積み重ねが、お店の財産になっていく/お客さんとの付き合い方/ウェブサイトの効用/「売れるお店」ではなくて「いいお店」/やってきたことの積み重ね/直取引で本屋を始めるには/資金作りの大変さ/お店の運営のしかた/返品はしない/直取引のメリット/店にあるものを買ってほしい/「自宅兼店舗」という生き方/大人な客と子どもな客/メディアとの付き合い方/本屋の店主も編集者であれ/割り算レベルで経営はできる/面白いことを続ける/共有している「いいお店」/「ちょうどいい」大きさの経済/小さく、長く続ける
第7章 本屋を本業に取り込む
本業に取り込める可能性はあるか
集客や営業のために
インテリアショップが一角で本を売る/住宅メーカーがモデルハウスで書店を経営する/印刷会社が紙や印刷、編集やデザインに関する専門書店を経営する
顧客満足度を上げるために
美容室の鏡ごとにライブラリをつくる/自転車屋の一角で自転車関連の本を売る/八百屋で野菜別にレシピ本を売る
ブランディングのために
自動車の期間限定キャンペーンで旅の書店をする/食品メーカーが食文化のライブラリをつくる/シェアオフィスの一角を古書店にする/知的なイメージで売り出しているタレントが書店をプロデュースする/地元企業が周辺住民のためのライブラリを運営する
研究・調査やスキルアップのために
IT企業が社内に技術書の書店を経営する/技術系の会社が膨大なライブラリを管理する
社内のコミュニケーション改善のために
社員食堂にライブラリをつくる
第8章 本屋を本業から切り離す
「つとめ」と「あそび」/実験ができる強み/リアル店舗も構えられる/イベントに出店する/インターネットで活動する/本屋として生きる
第9章 ぼくはこうして本屋になった
参考書マニアだった話/つくる側から届ける側へ/就職して二か月でドロップアウト/フリーターとフリーランスの間で/本と人との出会いをつくる仕掛け/ブック・コーディネーターという肩書/これからの街の本屋/選書から場づくりへ/本を売ることの公共性/インターネット古書店にできること/出版社をはじめた/東アジアが最先端かもしれない