小さな取次の口座を持つ――新品の本を仕入れる5つの方法(2)
別冊 本の仕入れ方大全 2(2)
中小取次の多様性と仲間卸
大取次の口座を持つためには、それなりの売上を見込むと同時に、保証のハードルを越えなければならない。とはいえ、大きな取次と契約ができなければ、出版流通に乗っている新品の本を扱えないかといえば、必ずしもそうではない。中小取次という選択肢がある。
大取次と中小取次の違いは、もちろん会社としての規模の違いでもある。だがそれ以前に、そもそも役割が違う。そのため、契約している出版社の数も違う。
大取次は、その一社で、あらゆる本を網羅的に揃える役割を果たす。そのため大手はもちろん、中小までかなりの数の出版社と網羅的に契約をしている。書店側は原則的に、大取次の一社とだけ契約することになる。
一方、中小取次はそうではない。それぞれ基本的に、特定の役割に特化している。そのため、一部の出版社とだけ契約をしている。書店側は大手取次の口座を持っていてもいなくても、中小取次であれば複数社を使い分けることができる。ここが大きな違いだ。
中小取次の役割は、大きく以下の三つに分類できる。
一つ目は、専門分野に特化した取次。たとえば教科書専門、医学書専門、音楽書専門といった形だ。たとえば楽器店に行くと、楽譜や楽器の入門書などが売っているが、そういったものだけを仕入れるのであれば大取次でなくとも、音楽書専門の取次と契約できれば十分であることになる。また、新聞・雑誌を専門としている取次や、海外出版物を輸入して卸す、いわゆる洋書取次もここに分類できる。
二つ目は、売れ筋の出版社に特化した取次。小さな本屋である場合、大取次の口座を持っていても、売れ筋の商品については配本がなかったり、注文しても欲しい数が入ってこないことが多い。そういうとき、A出版社の商品に強い中小取次であれば、大取次を経由するよりも確実に確保することができる。
三つ目は、小規模の出版社に特化した取次。書店だけでなく出版社の側も、一定の審査を通らないと大取次の口座を開くことができず、その条件も厳しい。そこで、それらの小規模の出版社の本を、出版流通に乗せる役割を果たす取次がある。特定の地方に特化したところや、一つ目のような専門分野に特化した役割を同時に持っているところも多い。
ここまでひと口に出版流通ということばを使ってきたが、それは巨大な網の目のようにつながっていて、取次から取次へと商品が流れていく。これを「仲間卸」と呼ぶ。たとえば、X取次が主な仕入先であるA書店が、B出版社の本を注文したとして、B出版社はX取次とは取引がなく、Y取次だけに卸しているという場合でも、B出版社→Y取次→X取次→A書店という風に、複数の取次を経由して届くような仕組みになっている。
仲間卸は、中小取次同士が、自社の専門外の領域をカバーしていく仕組みと言える。また中小取次間だけでなく、中小取次と大取次、あるいは大取次間でも行われる。仲間卸を行っているどこか一社の取次に対して本を卸している出版社の本であれば、その出版社の本はおおよそ出版流通に乗っているといえる。
そのため、もし大取次の口座を持てないとしても、取り扱いのある出版社ごとに中小取次を複数社使い分け、どこも扱っていない出版社の商品については、どこか一社から仲間卸で仕入れてもらうことで、ほぼすべての出版社の商品を仕入れることができる。口座開設の条件については、大取次と比べると断然ハードルが低いため、小さい規模で本を仕入れたい人でも、うまく使いこなせれば、多様な本を仕入れられる。なお、立地的には出版社同様、中小取次も東京に集中している傾向があり、中でも「神田村」と呼ばれる神田神保町付近のエリアに集中しているが、地方で店を開く場合であっても、もちろん相談に乗ってもらえる。
これらの中小取次は一社ごとに得意としている役割が違うため、できることやできないこと、条件などがそれぞれ異なる。小さな会社も多いため、大取次のようなシステムを期待すべきではなく、こちらのやりたい店に協力してもらうためには、より人的な関係性が大切になってくる。条件面でも、とくに仲間卸をすれば、間に入る会社が増えるぶん掛率も悪くなっていくし、返品も制限されることが多い。けれど小回りが利くぶん、よい関係が築ければ、頼れるパートナーになるはずだ。
あまりに多岐にわたるため、その条件を一般的に述べることは難しい。以下では直接取材を行った三つの中小取次を紹介する。
鍬谷書店
鍬谷書店は、医学書専門の取次としてスタートしているが、建築やデザインなど、その他の分野も幅広く取り扱いがある。約八〇〇社の出版社と取引があり、そのうちの約一〇〇社は鍬谷書店のみで扱いをしている。
仲間卸にも積極的で、鍬谷書店のみで扱っている出版社の商品を他の取次に卸すための口座も、鍬谷書店に扱いがない出版社の商品を他の取次から卸してもらうための口座も、日販やトーハンなどの大取次、およびすべての神田村の取次と開設しているという。
そのため書店側は、鍬谷書店の口座から、あらゆる出版社の商品を仕入れることができる。現状の取引先は、医学書の専門書店や大型書店の医学書売場が中心ではあるが、近年ではミュージアムショップなども増えているという。これからはじめる小さな店に対しても、積極的に口座を開いていきたいそうだ。口座を開くにあたっては、約定書を交わすことにはなるものの、信任金や保証人は不要だ。
仕入れ方法については、まず取次が小売店に向けて在庫を並べて卸売りしている「店売」と呼ばれる場所がある。神田村にはたくさんの店売があり、鍬谷書店では現金払いであれば最短でその日に口座開設をして、その場で仕入れることが可能だ。また、口座開設後は、事前に注文して店売に取りに行けば、その場で引き取ることができる。掛率は、大半の出版社のものは大取次と変わらない。出版社によっては八五%や九〇%以上になるものもあるが、だいたい平均して八掛程度になると伝えている。基本的には買切だが、業態や注文頻度、納品方法などによっては一部、委託条件を出すことも可能だという。店売に行かなくとも、都内で回れる範囲であれば配送も可能で、地方でも送料はかかるが宅急便で送ってもらうことができる。
また、発注については、鍬谷書店には「Kni/Ght(ナイト)」というウェブ発注システムがある。利用も無料だ。
また、出版社に直接注文することもできる。その場合は、鍬谷書店の番線を伝えて、鍬谷書店の店売に届く形になる。
弘正堂図書販売
弘正堂図書販売は、朝日新聞出版や毎日新聞出版などの新聞社系をはじめ、集英社、小学館、文藝春秋、中央公論新社、幻冬舎などに強い取次だ。
主な取引先は、メイン取次として日販やトーハンなど大取次の口座を持っている全国の書店である。上記の出版社の商品に特化したサブ的な取次として、使われることが多い。だが必ずしも大取次の口座を持っていない書店でも、現金仕入れであれば、基本的にはどんなところとでも口座は開くという。また顔の見える関係性が築ければ、現金でなく後日精算での取引も可能だ。支払いのサイクルによっては、二か月分の信任金を預かる場合もある。
もう一社、同じ神田村の取次の三和図書と共同で配送を行っており、弘正堂と口座を開く際は、三和図書も紹介するようにしているそうだ。三和図書はKADOKAWAや新潮社、NHK出版などに強く、両社と取引をすると、かなりの大手出版社が網羅できることになる。
仕入方法については、神田村の店売で仕入れる。現金を持ってくればその場で買うことができるし、取引のある出版社の商品であれば、店頭になくとも注文すれば二、三日で入荷する。掛率も大取次と変わらない一般的な掛率、いわゆる通常正味となる。送料は書店負担だが宅急便による配送も行っているので、地方の書店でも利用できる。
返品も受け付けている。ただし大取次との併用を行う書店が多いため、卸した数より返品されてきた数が多いと過剰返品として、書店に送り返すシステムを導入している。委託だからといってたくさん返品してきたり、売れ筋の商品だけをピンポイントで注文してきたりする書店ではなく、継続的に注文があり良い関係を築けるところと取引していきたいという。
子どもの文化普及協会
子どもの文化普及協会は、老舗の児童書専門書店であるクレヨンハウスが母体となって一九八四年に創立された。当初は絵本・児童書の専門卸であったが、現在はほぼ全ジャンルの本を扱い、幅広い出版社との取引がある。児童向けの雑貨や教材などのメーカーを合わせ、約三〇〇社の商品を仕入れている。
大きな特徴は、基本的に大取次の口座を持っている書店とは取引しないこと、すべて完全に買切であり一切返品ができないこと、ほぼすべての商品が七掛で仕入れられることだ。つまり、他の取次から八掛で仕入れることと比較すると、買切のリスクさえ負えば、粗利率が二割から三割に、一・五倍高くなることになる。信任金も不要で、口座開設は簡単な書類に記入するのみ。本体価格合計で三万円以上を注文すれば送料も無料だ。
取引先は、取次口座を持っていない絵本専門店を核として、雑貨屋やおもちゃ屋、子ども服屋、花屋、美術館、水族館や博物館など、多岐にわたる。本を売りたい人に対して広く門戸を開いていて、必要に応じて選書のアドバイスもしてくれる。いわゆる一般的な新刊書店以外の店で、新品の本を扱っている小売店には、最もよく使われている仕入先といえるだろう。
仕入方法については、専用のウェブ発注システムを使う。掲載されていない商品があっても、取引出版社のものであれば、ほぼ仕入れることができる。週二回の発注タイミングがあり、五日で届く。三〇年近い歴史のある老舗だが、これからの時代に対応するため、より早く届けて、異業種でも本を売れる仕組みで出版業を支えていきたいという。
小規模出版社に強い取次
ここまで三社の中小取次についてみてきた。他にも神田村をはじめ、たくさんの中小取次があり、それぞれに特徴がある。少し手間はかかるが、自分の店に合った形でうまく組み合わせることで、幅広い出版社の商品を仕入れることが可能だ。
また、ここまで挙げなかった中に、小さな出版社の商品を出版流通に乗せることを得意とする中小取次もある。JRC(旧称:人文・社会科学書流通センター)、地方・小出版流通センター、ツバメ出版流通などがそうだ。
こうした取次の取り扱い出版社の多くは、その取次のみと取引している。いわゆる「専売」だ。現在、良質な本をつくる小さな出版社が増え、存在感を増していることは、本好きなら肌で感じているところだろう。大取次や、仲間卸に積極的な中小取次の口座を持っていればもちろん、経由して仕入れることができる。けれど、もしそうした小さな出版社の本を積極的に扱いたいなら、これらの取次と直接口座を開くことができれば、独自の品揃えもしやすくなるといえる。
大取次による中小取次的サービス
最近では大取次も、小額からでも取引できるサービスを提供しはじめている。例として、大阪屋栗田が運営している「Foyer(ホワイエ)」がある。
取引先には、雑貨店や美容室、カフェなど、いわゆる新刊書店以外の、小さなスペースでの販売が想定されている。口座開設も簡単で、信任金や保証人は不要。申込書に記入すると取引契約書が送られてくる。それに必要事項を記入し、印鑑証明と合わせて返送するだけだ。
仕入は専用のウェブサイトから発注する。常時二〇〇万冊の在庫を持つ大阪屋栗田の倉庫と連動しており、そこに在庫がある既刊のタイトルだけが注文できる仕組みだ。掛率は八三%。返品もできるが、一〇%の手数料がかかる。二万五〇〇〇円以上発注すれば送料も無料。取引限度額は上限三〇万円までと定められている。
大阪屋栗田だけでなく他の大取次、あるいは書店でも、近いサービスを準備しているところもあるようだ。こうした大手の取り組みが進めば、まずは少しだけ本を売ってみたいという層の新規参入がより進みやすくなるだろう。
さらに多様な出版取次
ここまでに述べてきたような大取次とも中小取次とも異なる、別のタイプの取次もある。
まずは、大取次から本を仕入れて、いわゆる二次卸、仲卸を行うことを専門とする取次だ。あくまで大取次からの二次卸を主旨としているため、一部の出版社とだけ契約をしている中小取次とは性質が異なる。書店のフランチャイズという形式を取っていたり、特定の地域に特化していたりするところも多い。大取次での口座開設を断られた場合に、大取次側から紹介を受けることもあるようだ。一度契約してしまえば、原則的には大取次と同じように一社で幅広い商品を取り扱うことができる。
また、特殊な卸先に大きなシェアを持つ取次もある。よく知られるところでは、図書館に大きなシェアを持つ図書館流通センター(TRC)などがある。また、教科書を専門に卸す日教販も加えてもよいかもしれない。どちらも中小取次というには、規模が大きい。
ここまで見てきたように、出版取次のあり方は実に多様で、その全貌を把握することはむずかしい。一五九頁に、各出版取次のリストを記す。ただし、出版業界全体が大きな変化の時期にあるため、ここに記した情報も状況に応じて変化することには留意いただきたい。
※『これからの本屋読本』P133-140より転載
※(2018年11月追記)三和図書さんは、2018年10月末をもって取次部門の業務を終了されました。