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──あの夏の写真を使って頂いた記事
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#短編小説

短編小説:新しい夏

短編小説:新しい夏

 大学生の夏休みって、もっとキラキラしてると思っていた。
 長い長い夏休み。帰省したり、友だちと旅行に行ったり、恋人と夏祭りに行ったり、そんなことを夢見ていた。
 しかし実際はそうはいかない。八月の暑い日、僕は朝からコンビニのレジに立っている。キラキラした予定は、ひとつもない。
 まあ、その方が良いのかも。こんな暑い日に、どこかに行く方がおかしい気がしてきた。お昼でバイトは終わりだし、カップ麺とア

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夏の終わりに、君想ふ

夏の終わりに、君想ふ

 夏の匂い。私には、許せない人がいる。臆病で強がりのあの人は、私によく似ていた。そんなあの人も、もういない。夏の風とともに、私の前を通りすぎていった。

「桜子の名前は、もう呼ぶことはない」

 直紀は、私にそう言った。暗闇で掴んだ手は、あの時だけの幻になった。

 祭りを彩る提灯の光も、和楽器の音色も、あの頃と変わらない。変わってしまったのは、私の方だ。

「ママ、取れたよ」

 ヨーヨーを掴み

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