精神疾患療養環境の今昔(後編)
前編の「精神病者私宅監置の実況」はいかがだったでしょうか?
私宅と言われるくらいですから、当然自宅な訳で、まあ今で言う「在宅医療」ですが、日本の精神科の場合は、時代と伴に大きくそれは変化して、療養の主な現場だった私宅監置がなくなった代わりに、精神科病院での治療を中心としたものになり、今や精神科の病床数は世界各国と比べてもダントツに多い状況になっております。
しかし、呉秀三先生もおなげきになった「環境」は、改善したのでしょうか?
今回はその「環境」に焦点を当てて、私宅監置と同じ「隔離」という環境で比較できるように、精神科病院の保護室(隔離用の個室)を一冊の書籍から考察してみたいと思います。
ただし、呉秀三先生は、当時の保護室に関しても調査され、著書「我が国に於ける精神病に関する最近の施設」、精神医学精神学古典刊行会(1977)発刊がございます。もし、手に入ればこちらもご紹介したいと思いますが、今回ご紹介する書籍はこちら👇
ごく一部のご紹介でしたが、いかがだったでしょうか?もちろん、私宅監置の頃の隔離施設などとは比べようもない位に良くなっていますが、それでもまだまだ改善点や改修箇所はあると思います。
ご紹介しきれなかった分を含め、本書では全35病院の保護室を紹介されています。
感想として、一見全く同じように見える各病院の保護室も、実は微妙に違っていて、運用に差があることがわかります。
共通して困っている箇所では、収納、防音、観察(カメラ・小窓など)、食事の提供方法でしょうか?
この中で特に看護師が工夫を凝らしていたのは、食事の提供ですね。実は保護室内は固定式の低床ベッドであることが多く、配膳をどうするかにどちらも辛苦されているようで、段ボールで作ったミニテーブル(投げても凶器にならない)など、様々な工夫がありました。
そして何よりも建てた後に後悔していることNo.1は、収納のようですね💦保護室には、よく前室という保護室を利用している方の荷物などを預かるスペースがあったりするのですが、それがない場合は、様々な援助をする際の動線が長くなり、明らかに看護師の負担が増えているのがわかります。遠い収納場所に、いちいちその都度、服やら私物やらを取りに行く必要があるのですからね💦
またこれは、本書にはありませんでしたが、私の経験上気をつけるべきは、下水道配管の太さですね!実は私は数十年間使われた古い病院建物から、新築になった新しい病院建物に引っ越しをするという経験を2回(民間病院1回、公立病院1回)していますが、そのどちらも以前使っていた下水道配管より細い配管を新築病院で付設してしまい、毎日頻繁にトイレ🚻の紙詰まりを発生させるという結果になっていました。詰まりを処理してくださる、設備管理のおじさんが、「見えない所(下水道配管)をケチったらあかんよね~、仕事増えて困るよ」なんて愚痴っておられましたね💦
もし、これから全面新築や補修改築などをされる病院があれば、ぜひ本書の体験談や、私のこの経験を参考にされてはいかがでしょうか?
もちろん、本書の記事にもある通り、「本書の取材は2006年から開始された」とあるので、既に時代の進化で、或いはこれらの諸問題は医療施設の建築業者が十分にスキルを積んで、対処済みである可能性もありますが、本書の中には「(当時)建築業者との専門用語の理解の齟齬による不具合はあった。」とあり、それが建った後の長く続く苦労の元凶になる可能性もあるようなので、何度でも自分達のイメージが、設計者に本当に伝わっているのかの確認をすることは、重要だろうと思います。
また、最近ではコロナだけでなく、ノロなどのウィルスレベルでの感染症対策が重要ですよね?まさか、病棟の不潔リネン置き場が、栄養課との中継地点で、これから提供する食事配膳車が、そこを通過して病棟内に入って行くなんておバカな設計になっていませんか?実は、そんな病棟も(私の体験上)存在しているんですよ!
これはもう、「設計の段階で、気付いてくださいよ~」というレベルですよね😵
他にも、色々な病院の「作る前には、こんなになるとは思ってなかった!」や、「こうして、私たちは改善した!」という体験談がびっしりの一冊。
患者さんの快適な環境の為だけでなく、働く医療従事者の為にも、これから新築の病院を建てるのに担当者になってしまった貴方!また、改修工事の担当者になってしまった方などにも、病院のハード(施設・設備)、特に保護室の作りに拘ったこの一冊をぜひ、お手元にしながら建築業者と打ち合わせをされ、理解に齟齬がないようにするツールとして、これを用いてみてはいかがでしょうか?
後々苦労しないハードを作れるかどうか?って、まさに今が勝負どころです!
どうか、頑張ってください📣🎶
終わり🔚