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小説を書きました 【逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ 後編】



 今回は「逆噴射小説大賞2022」二本目の投稿作品:「不殺生共同戦線」について語ります。このコンテストの詳細や一本目については以下の記事をご覧下さい。
 前回記事が相当な長文になり「自作について語りすぎるのもマズイかな…」とも感じたのですが、作品語りというよりも振り返り日記=思考プロセスの記録として受け取って頂ければ幸いです。


・二作目を執筆するにあたって




 一作目の投稿作品「DISARM」は、おかげさまで様々な方に好意的な感想を頂けた。とはいえ、前作と同じことを繰り返して二作目を書いても仕方がない。今回は一作目と異なる路線で行こう…と考え、自分に以下のルールを課す事にした。

・一人称視点で描いていた文体を三人称視点に変更する
・インスピレーションを師匠:シルヴェスター・スタローンに求めない(或いは頼りすぎない)
・抽象的な存在だった主人公を具体的なキャラクターとして描写し、名前も明記する
・「作中で人殺しNG」の縛りは設けない
・もし執筆に詰まった際は、素直にダイハードテイルズ様公式の「パルプ小説の書き方」を参考にし、友人にも助言を求める



 とはいえ、ルールだけで作品は書けない。アイデア・キーワードも思うように浮かばなかったので、まずはざっくりとした舞台から決める事にした。なるべく他作品と題材が被らなそうで、オリジナリティとリアリティを両立できる場所を目指して…。



 日本・アメリカ・中国は比較的舞台になりやすいイメージがあるのでNG。ファンタジー・SF的架空世界を描く時間と力量は、少なくとも今の俺には無いため除外(“付け焼き刃で作った世界”は審査で見抜かれると思った)。過去のエッセイで述べたように“砂漠を舞台にした架空の世界旅行記”を書きたい意思も残っていたが、どうしても「DUNE」「スター・ウォーズ」「マッドマックス」等の先行作品の影がちらつき、独自性を出し切れない…。

↑中国・敦煌での記憶。


 ならば砂漠以外で実際に足を運んだことがあり、ある程度現地の文化に関する知識を持ち合わせている土地をチョイスするしかない。上に挙げた記事では“浅薄な考え”などと述べてしまっているので、時間差でブーメランを食らった気分だが…。
 こうした考えの果てに、俺はかつて二度行った経験のあるタイ・バンコクへと辿り着いた。


・舞台と主人公が決まるまで




 バンコクは様々な思い出が残る地だ。親切にしてくれた人々の声も、美味しい南国フルーツの味も、街を包む排気ガスと砂埃の臭いも、日本とは異なる信仰形態も、訪れてから10年近く経過した今でもなお鮮明に思い出せる。
 もしこの地を舞台に選定するとなれば、何かしらの“タイのお国柄”要素が必要不可欠。タイで連想されるものは、熱い肉弾系ムエタイアクション映画。ゾウやトラ等のパワフルな動物達。“リアル・スプラトゥーン”な水かけ祭り:ソンクラーン。気温の高さも忘れ難いか…。



 俺の目から見て最も興味深かったタイのお国柄は、上座部仏教の出家制度だった。俺はオレンジ色の衣を着た多くの僧侶を目にし、実際に托鉢も行った。その中には幼い頃から仏教一筋の者、何らかの理由で仏道を歩み始めた者、タイでは一般的な“徳を積むための一時的な出家”をしていた者…様々な方が居たはずだ。同じ職業・似た容姿であっても人生は一様でない。どのような経緯で彼らは頭を丸めたのだろう?



 
この要素を活かそう。舞台とモチーフは決まった。
 では肝心の内容はどうする?主人公の設定だけでは物語を生み出せない。改めて“俺が思うパルプ要素=カッコいいもの”を振り返ってみたとき、“バディもの”のジャンル、そして相棒という存在への憧れを見出した。



 それぞれ人間として一本筋を通し、時には反目し合いながら、自分にないものを補い合って一つの目標に進み、手を取り合って“何か”に挑んでいく…。そんな“憧れの要素”を書こうとした結果、僧侶の相棒は刑事となった。古今東西バディものの作品は数多い(そもそも“バディもの”自体、全ジャンルの作品において成立しうる)が、俗世から離れた僧侶を大事件に巻き込みやすい職業は刑事だろうと判断した結果の選択だ。初対面の人物による“バディ結成譚”はコンテストの800字制限上厳しいと考えた末、“かつてバディだった者同士が再結成を果たす”設定へ至った。


・物語の誕生




 上記の思考の末、俺は“元刑事の僧侶が安楽椅子探偵となり、行動派の現役刑事とバディを組む”プロットを考案した。それは同時に“法律とは別の厳しい規範=戒律を遵守する主人公は、絶対に殺人を犯せない”という制約を設けることにも繋がった。



 上座部仏教の戒律は非常に多く細かい。
メインとなる“不殺生戒”等の十戒を守るのは勿論、正午以降の食事NG・女性から肌に触れられることNG・筋トレやランニングNG…等々、深刻性に差はあれど100以上もの細かい規定があるそうだ。こうした戒律を破らぬ範囲で警察の捜査に助力し、安楽椅子探偵をすることは可能か?…といった現実的な問題は拭い去れないが、そこも一つのサスペンス・娯楽性となり得ると考えた。
 前述の通り、一作目が“殺人NG”を題材にしたため、今回はその縛りに囚われない予定だった。しかし、こうした設定により物語に“不殺生の必然性”が産まれた以上、結果的に一作目同様…いやそれ以上に殺人NG要素が色濃く出る作品となった。“不殺生”ありきで本作を考案したのではないため、本当に偶然である。




 さて、いよいよ本文の執筆に至る。まずは思いっきり説明台詞を書いた。

「探したぞダオ。まさかお前が刑事を辞めて坊さんやってるとはな。5年前の事件が辛かったのはわかる。俺だって一日たりとも忘れないさ。でも何で相棒の俺に何も言わなかった?」

 …といったわざとらしい口調の文章だ。こうした言葉から物語に必要な情報を抽出し、台詞をバッサリ削って地の文を書いた。この手段が小説の書き方として正しいかどうかはわからない。ただこの方法が俺にハマったのか、本作は「DISARM」よりもなめらかに筆が進み、結果的に逆噴射聡一郎先生の「書き方講座」に頼らず書き上げられた。もちろん頼ることを悪と考えている訳ではない。俺は驚異的なマニュアル人間なので、猛烈な影響を受けてしまうことを恐れたためだ。
 こうしてひとしきり書き終えた後には、創作を趣味とする大学以来の友人に校正・誤字脱字訂正をお願いし、本文を800字ピッタリに収めることができた。




 復活したダオ&チャイのコンビは如何にして連携を取り、捜査本部の横暴を出し抜くのか?そして二人はそれぞれの信念・戒律を守りつつ、誰も殺さず巨大犯罪を未然に防げるのか?──こうした物語の続きは、皆様のご想像にお任せしたい。

※タイの方々のフルネームはとても長い。基本的には短い愛称(チューレン)で呼び合う事が多いそうだ。今作の主人公二人は、タイで知り合った方の愛称を少しもじって命名した。マフィアのボス:ムーに関しては、Google先生に“タイ人 名前 男性”と尋ねて語感が気に入った名前を付けた。


・難航したタイトル命名



 投稿前の仮タイトルは「誰も殺すなかれ」。他の候補はもっとシンプルで「不殺生」「不殺生戒」。さらに悩んだ結果「不殺生捜査線」。…どうにもピンと来なかった。そして既に「DISARM」を投稿している以上、“殺さない事”を殊更に強調するのは品が良くないかも…と考えた。
 タイトルで悩んでいる件を先に述べた友人に相談したところ、「不殺生共同戦線」の七文字を打診された。不殺生以外の本作の特徴:バディ感を出せるし、口に出した際の語呂も良くしっくり来る…。
 この方向性を基に「不殺生共同作戦」等の新タイトルを練ったものの、結局「共同戦線」以上に本作に当てはまる言葉が思い浮かばなかったため、元の案のまま採用させて頂いた。素晴らしいアイデアを出してくれた友人には感謝してもしきれない。本当にありがとうございました。


・作品への反響、そして反省



 かくして書き上がった「不殺生共同戦線」は、摩部(摩撫)甲介さん・Laundryman Lv.Maxさんにピックアップして頂けたほか、Discordにて様々なお褒めの言葉を頂くことができました。特に様々な方から主人公(ダオ)のキャラクター造型──出来る範囲で捜査協力はするが俗世に戻るつもりはない、という信仰スタンスを褒めて頂けたのが非常に嬉しかったです。ここに御礼申し上げます。





 さて、改めて他の方々の投稿作品と本作を読み比べてみると、本作は非常に地味さが際立つ気がする。唐突に荒唐無稽なオチを付けた一作目はまだしも、こちらは肝心の物語がさほど動かず終わり=<続く>を迎えてしまった。説明台詞を使わずに二人の過去を匂わせたつもりでいたが、結局は説明に終始している、と言っても良いだろう。
 情報の詰め方も甘かったかもしれない。同じ800字制限という条件ながら、もっとイマジネーションに富んだ世界観を展開している方は大勢居らした。言葉の取捨選択が上手ければ、もっと密度の濃い作品にする事もできたはずだ。



 余談ながら、タイの麻薬取締局は決して作中で言及される“見せしめのドンパチ”などしない(…と思われる)。なのでタイ王国麻薬取締警察の方々に、フィクションとはいえマフィアと並ぶ暴力上等集団のような扱いをしてしまったことを謝罪したい。
 また、もう一点。僧列を写したサムネイル画像(写真ACより拝借)は、タイではなく隣国ラオスで撮影された托鉢の風景である。素材サイトから“俺の思い出に近いタイの僧列”をどうしても見つけられず、正確性よりもイメージを優先したためにやむなく選定した。今にして思えば写真に拘らず、むしろAI絵師を存分に活用する手もあったかもしれない…。


・今後の創作活動へ向けて




 文章を用いた久々の創作活動は悩ましくもあり、同時に楽しくもあった。アイデアが浮かばない時のストレス・無力感はたまったものではないが、いざ筆が乗り始め、無事書き上げて投稿ボタンを押せた瞬間の喜びは筆舌に尽くし難い。もしこの度の俺の投稿で「逆噴射小説大賞」という世界を知り、何となくでも興味を持たれた方が居らしたら、是非とも参戦してみてほしい…と胸を張って勧めたい。



 今回投稿した二本が選考に残れるかどうかはわからない。ただどのような結果に終わろうともめげず、来年の「逆噴射小説大賞」にも再び参戦するつもりだ。今は持てる全てを出し尽くしてしまったため、何のアイデアも浮かばないが…。
 ともかく、次回はまた新たな方向性を模索し、より文章力を高めた上で“エンジョイ&エキサイティング”な作品を産み出したい。


 最後にもう一度だけ。
「DISARM」と「不殺生共同戦線」を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

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