文体の舵をとる─『文体の舵をとれ』第五章+お知らせ
●練習問題⑤ 簡潔性
この名画座のルールは四つ。
一、上映中は喋らない。一、携帯電話の電源を切る。一、撮影録音禁止。一、エンドロールが終わるまで席を立たない。
禁忌を侵せば取り込まれる。何に?スクリーンの中に。令和とは思えぬ黴の生えた都市伝説。聞いて呆れる、と皆が思うだろう。だが、俺は知っている。噂が真実であることを。
今週の上映は俺のオールタイムベスト「2112」。一生体験できない技術が盛り沢山の近未来SF映画。浮世なんか捨てて、作品の中で生きていたい。期待を胸に秘めて劇場内に入った俺は、最後列の色褪せたシートに腰掛けた。
──上映開始から110分が経っていた。既にスクリーンはエンドロールの最中。全く、名作は何度観ても名作だ。噂など忘れて見入ってしまった。いや、観客でいるのもこの瞬間まで。
理想の世界で幸福に生きてやる。決意とともに、慌てて席を立った。
広がる漆黒。
浮かぶ言葉。
世界の終焉。
俺は初歩的なミスを犯したらしい。
●振り返りとお知らせ
シュールな文は難しい。
……それはさておき。普段書く文章が、いかに形容詞と副詞で濃く味付けされたものだったのかを痛感した。この形式で何らかの公募作品を書け!と言われたら、相当難儀するだろう。とはいえ今回は習作かつ文字数制限が短いため、さほど思い悩まず執筆できたような気がする。何らかの“縛り要素”があると筆が進むのは、俺が小説慣れしていないためか。
著者(ル=グウィン)の仰る通り、確かに簡潔な文体になったかもしれない。しかし形容詞も副詞も恋しい。確かに簡潔な文体への憧れは強いが、当然ながら簡潔=良い文章……と一概には言えない。良いバランスを見つけ出せ、ということだろう。
現在は難関「第七章」(視点に関する問題)の本題をようやく終え、追加問題に取り組んでいる最中。……だが、追加問題に必要な物語、特に登場人物とシチュエーションが浮かんでこないため煮詰まっている。悩ましい。
●追記 ↓振り返り記事です。
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